最近、雑誌ばかり読んでいるような気がするがWIRED Vol.3がとてもおもしろかった。
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京とTSUBAME2
<京>が仕分けにもめげずにHPCの計算能力をはかるTop500で見事1位になったのは記憶があたらしい。この特集では、<京>にフォーカスしつつも、日本が誇るもう一つのスーパーコンピュータ
国産のスーパーコンピュータという考え方
この中で、もし<京>が仕分けされていたら、日本のスーパーコンピュータ研究は崩壊していた、とのコメントがあった。研究者の全てが大学のポジションにつけるわけではないので、ある程度実績を積むまではドクターを取得した研究者はポスドクというポジションにつく。このポスドクというポジションはプロジェクトベースでアサインされるので、もし<京>がご破算になっていたら、みんな職を求めて海外に行く必要があった、というわけだ。研究者とあわせて、国産スーパーコンピュータという部分に関して松岡教授が補足ツイートしていたので、紹介しておきたい。
というわけで生産国が「?製」を決めるのならば、Tsubame2.0は日本製なのだ。シャシーにもちゃんと「Made in Tokyo」と書いてある。勿論全体のインテグレーションの設計主幹はNECなので、その点からも日本製である。なのでWiredの記事は間違いとなる。
でもそうするとiPhoneは米国製でなく中国製となる。じゃあCPUをどこで製造したかか?するとNVIDIAのGPUは台湾製だし、AMDはドイツ製だ。じゃあCPUの設計?するとiPhone含ARM系のスマホは英国製、IntelのCPUの半分はイスラエル製だ。ソフトもしかり。
つまり、殆どの分野が水平分業化している現代のIT産業において、「?製」という国のラベルはさほど意味は持たない。垂直が唯一機能してるのはメインフレームとゲームコンソールとアップルだけで、これ等も今や崩れつつある。スパコンも超並列・コモディティ時代になり、例外ではない。
なので、日本に限らず、米欧中も「自国製のスパコン」に拘るのは大変謎である。これは、スパコンの特定の部分(例えばネットワークとかメモリとか)に自国産業がIPやデファクトを持っているというのとは話が違う。しかもソフトが重要な今では、デファクトから外れるのは致命的になりかねない。
結局?メーカー製のスパコンが売れて大きな経済効果が直接的・間接的にあり、税収が拡大し自国民が富むのであれば、水平分業の中でのバリューチェインで鍵となる部分をなるべく広範に抑えるのがベストである。例えばIntel, Mellanox, DDNはそうである。スマホの東芝もそうだ。
日本の個別のスパコン技術はハード、ソフトからアプリまで優れたものが数多くある。しかし世界の中で産業としてじり貧なのは個別の技術をIT産業の水平分業のレイヤでのコンペテンスとせず、垂直統合の過ぎ去った夢を追い求め続けるからだ。この夢は国費という生命維持によって生きながらえて来た。
しかし、種々の要因により最早多額の国費支出は今後は期待出来ない。その中で今保有する優れた技術を国民の為にマネタイズするには、他の産業では行っているように技術を水平分業し、更にITの他分野と相互レバレッジするしかないのである。日本の得意分野で世界市場で勝利・独占するのだ。
特定のスパコンやメーカーが世界一になるより、そのように特定の部品で世界市場を独占すれば世界が握れる。考えてみよう; 莫大な金をかけてTop500で瞬間一位を取るより、水平分業市場独占IT産業レバレッジの方がずっと技術的優位性を誇れるし儲かるではないか。
まとめ
WIRED Vol.3のスーパーコンピュータ特集を読みつつ、松岡教授のツイートも紹介しました。ご意見、ご感想などもしあれば、Twitterやっているので、@gamellaに送っていただければ。