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FutureInsight.info

AI、ビッグデータ、ライフサイエンス、テクノロジービッグプレイヤーの動向、これからの働き方などの「未来」に注目して考察するブログです。

ライフテクノロジーのイノベーションが突き抜けた後に残る問題

先日、10年後予測のエントリーを書きましたが、たしか2025年の働き方に関する未来予測の本が評判になっていたのを思い出し、「ワーク・シフト」をKindleで購入して読んでいましたた。

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
リンダ・グラットン 池村 千秋

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そしたら、ちょうどessaさんがワーク・シフトのエントリーを掲載し、かなり自分が感じたことと似たようなことを書いていました。

もし、今の自分が2012年をうまく総括したと思う本を見つけて、タイムマシンで10年前の自分に送ったとしたら、10年前の自分には理解できないし納得できないでしょう。その本には、たとえばスマートフォンやタブレット等のモバイルデバイスの普及について書いてあると思いますが、10年前の自分は「アップルや携帯電話のことは後でいいから、それよりマイクロソフトがどうなったか先に教えてよ、てか何でそれが最初に書いてあるの?」と言うでしょう。ソーシャルメディアのことには多少興味を持つかもしれませんが、当時の私は「短文ブログ」としてブログの延長線上でしかとらえられないので、やはり、どこかずれた理解になってしまうと思います。

人口動態などの一部のトレンドに関しては避けられないものなので、それは間違いなくやってくる未来だが、essaさんが書いてあるとおり、それ以外の部分に関しては、おそらく2025年から振り返ったらかなり間の抜けた予測になっていると思う。ただ、それでもなお、この本は一つの指標として意味があると思うし、もしかしたら子育ての一つのアイディアとしても読む価値があるかもしれません。essaさんは予想できないイノベーションがある分野として「節電」をあげていましたが、僕はこの2025年までに劇的に技術が進むのが「遺伝子診断」と「マーカー検査」が複合したある種の「総合ライフテクノロジー診断」であると考えています。
僕がこの分野の技術が劇的に向上すると考える原因は、以下のとおりです。

  • 遺伝子やメタボロームのような網羅的計測とビッグデータの技術が抜群に相性がよいこと
  • IPS細胞のブレイクスルーにより欧米のキリスト教的価値観の問題が治療的にクリアできそうなこと
  • 医療費の削減が高齢化が進むすべての国で緊急の課題となること

分子生物学の分野の計測技術の発達はものすごい勢いで進んでいますが、それでも個人の健康管理を目的に計測するような用途に利用できるほど安価なシステムにはまだなっていませんでした。ただ、そろそろ99ドルで検査できる時代がやってきました。

この100ドルを切ったという閾値が大事で、ある規模の網羅的なデータとその結果が取得できれば、あとは流行のビッグデータ技術の活用により、どのような因子がどのような結果をもたらすという部分の解析が一気に進むと思います。代謝物質を測定するメタボロームに関しても同様に、今後のブレイクスルーが起きれば、いよいよ遺伝子と代謝物質を測定することで、その人の予想死亡年齢やがんリスクなどを検査することが可能になってくると考えます。とはいえ、そのようなものが分かっても治せない病気だらけでは意味がないのですが、並行して進むIPS細胞の研究の到達点などを考えると、今では治療できない病気も治療できるようになってきて、いよいよワークシフトにも書いている通り人類の平均寿命が一気に伸びる可能性があります。また、治療の高度化により、どのくらいのお金を出せば、あと何年寿命が延びるということもわかるようになるかもしれません。すべての先進国が高齢化を迎えるなかで、医療費の削減が緊急の課題となることは明白ですので、このような高度な治療はおそらくなかなか一般的な治療方法としては普及しないでしょう。
さてこのような状況の中で、「総合ライフテクノロジー診断」により、自分があとどれくらい生きることができるかの確率予測がかなりの精度で達成できるとなり、そのときに例えば、自分が65歳で死ぬ確率、70歳で死ぬ確率が高いことを知って、どのくらいのお金をかければそれを伸ばすことができるという情報が手に入った時、それを自分の人生に役立てることができるでしょうか?僕はこの部分に関してはほとんどの人はNoだと思います。多くの国の倫理委員会も個別のケースごとにほぼNoを言うと思います。例えば、出生前診断に関してもかなり厳しい条件がつきました。

僕も「総合ライフテクノロジー診断」の情報はもらっても活用できると思えません。ただ、一部の先進的な人が、ある一部の自由化された国で、「総合ライフテクノロジー診断」を受けて、その情報を活用して人生設計を行うようになった時に、その動きはどのくらい広がるでしょうか?ここで必要なのは、倫理観と死生観のアップデートです。僕らの次の次の世代くらいでは、この情報を活用する準備が整っているかもしれません。この分野に関しては、ITほど急激な進化はないと思いますが、それは技術ではなく考え方のアップデート自体が必要になってくるという領域に到達する可能性があると思っています。