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FutureInsight.info

AI、ビッグデータ、ライフサイエンス、テクノロジービッグプレイヤーの動向、これからの働き方などの「未来」に注目して考察するブログです。

独創的かつ独善的で抜群に面白いスゴ本 - 書評「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」 ピーター・ティール

久しぶりにこれは面白いなー、という本を読んだ気分。ペイパルの創業者であり、Facebook初期に出資したことでも知られるピーター・ティールの講義をまとめた本。

[目 次]

日本語版序文 瀧本哲史

はじめに

1.僕たちは未来を創ることができるか

2.一九九九年のお祭り騒ぎ

3.幸福な企業はみなそれぞれに違う

4.イデオロギーとしての競争

5.終盤を制する―ラストムーバー・アドバンテージ

6.人生は宝クジじゃない

7.カネの流れを追え

8.隠れた真実

9.ティールの法則

10.マフィアの力学

11.それを作れば、みんなやってくる?

12.人間と機械

13.エネルギー2.0

14.創業者のパラドックス

終わりに―停滞かシンギュラリティか

基本的にはテクノロジー・産業のブレイクスルーを投資やチームで実現する上で、最も重視していることをまとめた本。そこにピーター・ティールの個人的な思想をたっぷりふりかけてある。しかし、決してひとりよがりなだけの本という感じはしない。たとえば、栄養学に関する以下の一言だけ見ても、テクノロジーによるブレイクスルーを行う上でもっとも重要なことが何なのかを理解することが容易だ。

では、栄養学はどうだろう? 栄養は誰にとっても大切だけれど、ハーバードに栄養学の専攻はない。最も優秀な科学者たちは別の分野に進む。この分野の大規模研究のほとんどは三〇年から四〇年前に行なわれたもので、そのほとんどには深刻な間違いがある。低脂肪と大量の穀物中心の食事が推奨されてきたのは、科学の裏づけからではなく大手食品団体のロビー活動の結果だろう。おかげで肥満の問題はさらに悪化している。栄養について学ぶことは多いのに、僕たちははるかかなたの星についての方が詳しい。栄養学は簡単ではないけれど、不可能でないことは明らかだ。隠れた真実を見つけられるのは、まさにこういう分野だ

この本で、結構話題になったことに「リーン・スタートアップ」を完全否定した、というトピックがある。読んでみると、これは結構おもしろい話題で、ピーター・ティールは単純にリーン・スタートアップによるアプローチでは、競争を避けることができないことが問題だと述べている。これはたしかに一理あって、リーン・スタートアップのMVPという概念は、検証としては極めて低コストなアプローチだが、実際問題それは成功を約束することはできない。というか、個人的には価値検証用に最小限のプロダクトを開発するMVPのアプローチの他に、ピーター・ティールが提唱するような「独占を目指し、競争を行わない」というアプローチはたしかに存在し、ここだけはMVPと真っ向からぶつかる。逆にいうと、そこだけで、実際に一つのプロダクトを作成した後の発展のさせ方はリーン・スタートアップの方法論を特に否定していないし、ただそれよりも営業とタイミングを重視するべき、という投資家らしい意見がメインである。

全体的にピーター・ティールは本の中で、この「タイミング」という概念を非常に重要視していることがわかる。タイミングというトピックでは、テスラに関する話題が抜群に興味深い。テスラの項目は本当に読む価値があると思うが、タイミングの部分を引用してみる。

タイミング:二〇〇九年、誰もが環境テクノロジーへの政府の支援が続くものと予想していた──環境ビジネスの創出は政治的な優先課題で、補助金がすでに予算に組み込まれ、温室効果ガスの排出取引を認める法案が議会を通過する見通しだった。だけど、じゃぶじゃぶの補助金が無限に流れ込んでくると誰もが思い込んでいた中で、テスラCEOのイーロン・マスクはこれが一度きりのチャンスであることを見抜いていた。二〇一〇年一月、オバマ政権のもとでソリンドラが破綻し補助金が政治的に取りざたされるようになるおよそ一年半前、テスラはエネルギー省から四億六五〇〇万ドルのローンを確保した。二〇〇〇年の半ば、五億ドル近い補助金なんて誰も想像しえないことだった。今でもそうだ。それが可能だった一瞬を、テスラは完璧に捉えたのだ。

はっきりいって、テスラの成功ストーリーは本当に天才的なものであることが、この本を読んでもわかるが、特にこのタイミングに関しては、完璧だと言わざるを得ない。多くの起業家がジョブズの後継として、テスラのCEOであるイーロン・マスクをあげるのもこの章を読めば理解できる。

そんなわけで、全体的に非常におもしろい本です。論考も独創的かつ独善的ですが、そのバックグラウンドこそが、ピーター・ティールの真骨頂でしょう。ひさしぶりに、テクノロジートピック好きにオススメできるスゴ本です。