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FutureInsight.info

AI、ビッグデータ、ライフサイエンス、テクノロジービッグプレイヤーの動向、これからの働き方などの「未来」に注目して考察するブログです。

AIブームの説明だけではなく、2030年に向けた思考実験の基盤を提供してくれる本「商品の詳細 人工知能は私たちを滅ぼすのか―――計算機が神になる100年の物語」

大学時代の先輩で現在はUI/UX/VR系の開発で活躍中の著者児玉さんから献本いただきました。ありがとうございます!

人工知能は私たちを滅ぼすのか

人工知能は私たちを滅ぼすのか

さて、早速読ませていただきましたが、中身はAIをベースにした骨太なIT技術史です。通常のAIの解説書はどうしても、 松尾先生の本なども「現在の知識」でできることを枠組みにまとめてしまう本が多いと思いますが、この本は、どうして、 今のAIが今のAIの「カタチ」になったのかを説明しています。

コンピューターは勝手に進化しているのではありません。
開発者の設計思想(アーキテクチャー)に大きな影響を受けています。
その歴史を知ることではじめて、現在と未来の人工知能について理解することができます。

第二次世界大戦中のナチスの暗号装置エニグマの解読機であるチューリングマシンから、
パーソナルコンピューター、スマートフォン、
クラウド、IoTを経て、人工知能が一般化する2030年までの100年の物語は、
開発者のビジョンと信念で描かれています。

これって、とても面白くて、現在のブームって、多様なIT技術者の歴史の結果でもあるわけです。それを考えずに、 「現在できること」の知識を学んでも、あまりにも変化が早いので、おそらくそれはすぐに時代遅れになるでしょう。

しかし、この本は違います。どうしてAIが今の形になったのかの「歴史」にフォーカスしてるので、少なくとも、 この本の知識があれば、次の一歩を考える取っ掛かりをくれるわけです。

現在のAIブームって遡るといろいろな源流を見つけることができると思うのですが、児玉さんの得意領域であるPDA などのパーソナルデバイスの枠組みをその源流に見出すというのは、その記述の正確性を図る上でも大仕事だっただ ろうと想像がつきます。

そういう意味では、結構キャッチーなタイトルとかわいい表紙ですがその中身は、極めて骨太な大仕事をして、さらに それを難しくない簡単な言葉で説明しているという点(難しい言葉で説明している本はいっぱいありますが)で、 ほぼ唯一無二の本だと思いました。このブームに合わせてAI系の本を書いている人で、ここまで濃い内容に煮詰めるのは無理でしょうしね。

さて、すこし中身を覗いてみましょう。

まず、この本で特徴的なのは上で述べたとおり、AIの今ではなく、歴史にフォーカスしている点です。

180P近辺でやっとディープラーニングが登場します。見た目はAIの本ですよ!しかし、ディープラーニングと いう現在の知識に到達するまでの歴史を説明しているわけです。ディープラーニングが登場するシーンがこちら。 それまではコンピュータ、インターネット、PDAの歴史などが述べられています。しかし、ここまで読むと おー、ついに登場したとなる仕掛けです。

ヒントンは、コンピューターを用いたニューラルネットの研究によって、脳の仕組みの
解明を目指そうとします。ですが当時はミンスキーの影響でニューラルネット研究は冬の
時代の只中で、研究に対する支持や研究費を得るのは困難でした。ヒントン自身、周囲か
らは「気が狂ってる、ナンセンス」とまで言われたそうです。
 その後、アメリカの大学に移ったヒントンは、ミンスキーの批判に逆襲することになり
ます。カリフォルニアで知り合った研究者とともに、パーセプトロンの限界だった単純な
分類以上のことができる新たなニューラルネットの方式を発明したのです。
 ヒントンたちが提案したのは、パターンを学習したニューラルネットによる分類などの
出力の誤りを少なくするため、出力に近い層の出力のエラーを小さくするよう、入力に近
い層を調整する。その層を調整するために、さらに入力側の層を調整する、というように
どんどん出力側から入力側にさかのぼって調整を行なっていくというものでした。 
この方式によって、ミンスキーが批判したような、分類の制約が乗り越えられることがわかりました。
同時に分類などの精度が大きく向上することがわかりました。またこの方 式が、
複数の層からできたニューラルネットをうまく取り扱ったことが、のちにより深い階層の
ニューラルネットを実現する、ディープラーニングの実現につながっていきます。

僕も今知ったのですが、ヒントンさんって、Natureの1986年の論文でも共著者なんですね。

たしかにここからニューラルネット冬の時代を超えて、ディープラーニングにたどり着き、グラフィックスの 研究があって、たまたまそれを実現する超並列型のGPUという計算能力が世の中にあったのだから、 世の中わからないものですね。

そして、この本のおもしろいのはここからで、このあとは人工知能がわれわれの社会をどのように変えるかが説明されます。

児玉さんは、人間が頭脳労働から開放され、肉体的な死を克服する世界観を2030年近辺でも考えているよう ですが、僕は上の概念が社会にはいるには一世代を超える必要があると考えており、その前の段階として、 たとえば現在の将棋棋士やチェスがコンピュータを利用して学習して強くなるように、もしくは人工知能と 人間が一緒に戦う種目がチェスにあるように、人間に寄り添う機能がより強化され、中期的には、人間の責任 は人工知能をどのように使うかによりフォーカスされていくのかなーと思っています。

このあたりの世界観は個人によってばらばらでしょうが、すくなくともUI/UX業界で最先端の仕事をされて きた児玉さんの考えなのだから、なんとなく僕よりも実現性はたかいかもしれません 笑

最後に、あとがきにもあるように、この本の狙いってまさにこういうことなのだろうと思います。

筆者には今7歳の甥がいます。2030年には、彼らがマリやリクの歳になっています。 彼らが大学を出て
就職する頃、私たちはどんな社会を用意してあげられるか。そんなこと を考えながら本書を書きました。

2030年に向けての思考実験を自分なりにする基盤を提供してくれる本と考えると、すごくわかりやすい 立ち位置の本だと思います。AlphaGoすごいなーって感じた一がその潮流を感じるには、すごくおすすめの本です。