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書評『The advent of the algorithm: The idea that rules the world』

まず、邦題がよくない。「The advent of the algorithm: The idea that rules the world」がなぜ「史上最大の発明アルゴリズム―現代社会を造りあげた根本原理」になるのか。しかし、この本はこのまま埋もれていくには惜しい、まぎれもない一級の科学本である。

『史上最大の発明アルゴリズム―現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド バーリンスキ (著), David Berlinski (原著), 林 大 (翻訳)

この本を読んでから、半年がたった。2回読み返して、この本の書評を書こうと思った次第である。
訳は読みにくいが、原書がそもそも相当読みににくい文らしく、そういう意味では訳者はがんばっていると思う、けして悪くはない。

この本は、アルゴリズムという概念が生まれ、成熟するまでの歴史、人間、なにより思考の過程をトレースした本である。筆者は、アルゴリズムの歴史を、

形式的算術と帰納を用いて不完全性定理を証明したクルト・ゲーデル
λ関数のアロンゾ・チャーチ
仮想上の機会を考案したA・M・チューリング
そして、フォン・ノイマン

という、論理学のスターに光をあてて読み解いていく。その章の開始時に筆者による論理学者同士の会話などの寓話が挿入されるところなどは「ゲーデル・エッシャー・バッハ」を想起させるが、この中身は極めて体系立っており、ある程度の数学の素養があれば、読み解くことは困難ではない。

俺がなにより驚いたのは、この作者がアルゴリズムという概念が生まれたいきさつを極めてエレガントに、その思考過程までトレースして提示した部分だ。ここで、アルゴリズムとは、形式的算術と帰納を組み合わせ、ある一定の関数化されたものが、ある一定の条件にしたがい有限個行われる過程としよう。この、だれもがプログラムで各コードの概念一つが一つが歴史の中で生まれてきた宝石たちであることをこの本は証明している。たとえば、λ関数を提唱し、Lispを生み出したアロンゾ・チャーチなどの説明はとても暖かい。筆者はアロンゾ・チャーチの生き方を最も偉大な生き方の一つだと述べているが、そこにちりばめられたエピソードと彼の科学に対する姿勢はアルゴリズムを駆使し、プログラミングを行うものにとって、敬服を抱かずにはいられない。自分達が行っていることの歴史はどこにあるのか、科学者が科学史を学ぶことと同様に、プログラマーがアルゴリズム史を学ぶことも重要だと思う。

Amazonの掲載された書評にある、

行きつ戻りつ読み進むにつれ、知的探求心を満足させてくれることは間違いない。週末にでも、時間をかけてあせらずにゆっくりと、著者の謎かけを解き明かしていくのが正しい読み方だろう。そして、その価値は十分にある。
この言葉は、まさしく俺が感じたことと同じである。プログラムを操る人全てに一読を薦めたい。