まず、動画配信ビジネスについて考えを整理しておく。
動画配信ビジネスは基本的にはDRMの強度と動画の品質、販売価格の3点を通して、ユーザとコンテンツプロバイダが妥協点を決定し利益を最適化するビジネスであると考えている。現状、このビジネスをどのように展開するかはまだ定めっておらず、現在行われているアメリカの脚本家組合のストライキでは、動画配信ビジネスに関する脚本家の報酬が大きな争点となっているが、現状、確立したビジネスモデルがないので、ゴールデングローブ賞の授賞式が中止になるほど無意味ストが長引いているらしい。
で、このスト、最大の争点が「オンライン配信した動画コンテンツの利益の分け前」なのであった。時代を感じさせるではありませんか。
脚本家組合側は、「売上げの2.5%」を要求しているが、メディア側は「DVD同様、売上げの0.3%"0.36%。ユーザー課金しないストリーミングはゼロ」と主張しており、全く平行線。
YouTubeのようなネットの動画配信事業は、そのURLをクリックするだけという障壁の低さから、動画に親しむユーザを拡大を増やす上では魅力的だ。多くのコンテンツプロバイダは低コストな広告としてうまく利用していくと思う。しかし、技術的にビデオ自体(flvファイル)をダウンロードすることが可能なので、基本的に動画配信ビジネスとして収益を上げるものではない。ニコニコ動画はすばらしいコンテンツを生成していると思うが、こちらも広告プラットフォームとしてうまく成熟していくのではないかと思う。
では、DRMが機能しているプラットフォームについて考える。DRMを実現するためには、動画の再生を限定する安全なプラットフォームが必要になる。それがAppleにとってiTunesである、着うたにおける携帯電話である。プラットフォームを通したDRM以外は、CCCD、ルートキットのようにユーザの不満を招く。それは双方にとって不幸なことである。SONYもPS3のPLAYSTATION Networkを通して、映画コンテンツを販売していくことがストリンガーCEOによって発表されている。今後SONYにとってはPS3が動画配信のためのプラットフォームということになる。
「次事業年度には、われわれはPLAYSTATION NetworkでAppleとMicrosoftと真っ向から対抗することになるだろう」とStringer氏はReuters通信社に対し、暗に
iTunesとXbox Liveを指して話した。Stringer氏はまた、次年度には同社の大量のコンテンツの品揃えの多くがPLAYSTATION Networkで提供されるという、過去のソニーの発言を裏付ける次のような発言を行っている。「先週の金曜日には、ソニー、ソニー・ピクチャーズ、ソニーBMG、ソニープレイステーションの責任者が全員同じディナーテーブルに集まって、実際に連絡を取った」(Stringer氏)
ソニーCEOのHoward Stringer氏がNews.comに対し2008年のソニーの戦略について語りました。その中でStringer氏は、現在主にゲームのネットワークとして使用されるオンラインサービスPLAYSTATION Networkの拡大を戦略の1つとして挙げました。この拡大というのは、以前から噂されるビデオなどのマルチメディアコンテンツの配信についてを指し、ソニーの意向としてはこういったマルチなプラットフォームへの転換を目指しているそうです。
僕はiTunesで音楽は購入したことはあるが、動画を購入したことはないのでこのあたりの使い勝手が良く分からないが、動画配信が進んだ韓国でKTがPS3と一緒に展開している「MegaTV for PLAYSTATION3」は触ったことがある。「MegaTV for PLAYSTATION3」は一定料金(1000円くらい)を払うと、ほとんどのHDコンテンツを自由に閲覧することが出来、最新作は一作につき300円程度を払うことで閲覧することが可能になるというサービス形態をとっている。
利用料金は8,000ウォン(約1,000円/1円=0.1283ウォン)/月だ。会場にいた人に月8,000ウォンを支払ってこのサービスを利用したいかどうか聞いたところ、会社員という男性は「今は各放送局サイトで配信されている番組のVOD再放送をよく見ているが、いちいち放送局ごとのサイトにアクセスするのは面倒。8,000ウォン程度ならお金を払ってでも楽に見られるし、飽きたらゲームもできるから良いのでは」と答えていた。
動画配信が一般的な韓国でこの利用形態が受け入れられているということが、今後の動画配信サービスを考える上で、一つの指標となるかもしれない。事実、このサービスを利用したPS3購入キャンペーンのおかげもあり、現状、韓国でPS3を購入した多くのユーザがこのサービスに加入している。Appleの動画配信ビジネスは、音楽配信ビジネスと比較してあまりうまくいっていないらしい。iTunesから閲覧できる動画はだいたいYouTubeなどから閲覧可能なものと品質が変わらないため、差別化が大変だと思う。動画は音楽と違って一度見たらもういいと思う人が多いと思うので、そのあたりのサービスの設計の難しさがある。そもそもブラウザの拡張を入れるとYouTubeからiTunesにワンクリックでMPEG4-AVCに変換した動画を登録できる現状で、動画を買う人がそんなにたくさんいると思えない。
さて、ここで動画配信ビジネスをなぜ引き合いに出したかというと、動画配信ビジネスの発達により、BDが不要になると言い出している人がいるからだ。これは「MegaTV for PLAYSTATION」を触った個人的な感触だが、FullHDを充分に楽しめるスペックの液晶を持っていない限り、「MegaTV for PLAYSTATION」が配信する1080i解像度(地デジと同レベル)の映像とBDが提供する1080pの映像を一般ユーザは区別できないのではないと感じた。1080i解像度の映像をストリーミング配信するにはおよそ10Mbpsの転送スピードを確保する必要がある。アメリカや欧州ではおよそ1Mbps程度の転送スピードの環境が大半を占めると聞いているので、このサービスを提供することはほぼ不可能だろう。ただ、韓国や日本で10Mbpsの環境を作成することにたいしたコストはかからない。うちのマンションの光ケーブルもコンスタントに30Mbpsが出る。となると、日本、韓国限定では動画配信ビジネスがBDに変わって普及する土台が充分にあることになる。この辺りの勝算もふまえて、SONYはBDと一緒にPS3を通した動画配信ビジネスを推進しようとしているのだろう。