前回書いた「DRMの未来」が長文を書いた割に意外と好評だったので、本当は「クラウドコンピューティングの未来」という題材でエントリーを一つ書こうと思ったのですが、DRMは仕事でも少しは関わっているため何となく方向性もわかるのですが、クラウドコンピューティングはそれが技術なのか、サービスなのか、単なるバズワードなのか背景がよくわからないので、まず「クラウドコンピューティングってなんなの?」って辺りをまとめてみたいと思います。記載したURL以外に、日経コンピュータ 2008/03/15号の「IBM、グーグルが創る次世代ITクラウドコンピューティングの正体」も参考にしましたのが併せてお読み下さい。
言い出したのはGoogle エリック・シュミットCEO
クラウドコンピューティングという概念をこの業界で最初に言い出したのはどうもGoogle エリック・シュミットCEOのようです。シュミット氏が講演内でたびたび説いていたこの言葉が、昨年後半から一気に業界内で広がりました。シュミット氏がどのように「クラウドコンピューティング」を考えているかは以下のエントリーなどが非常に参考になります。英The Economist誌の関連記事の全訳も掲載されていますので、併せてご参照下さい。
上のエントリーを参考に簡単に要点をまとめると、
- オーディオ、ビデオ、テキスト、デジタルデータなどの全てのデータがネットワーク上に集合し、コンピュータの本質がコンピュータ本体からネットワークへのシフトしつつある。
- ネットワークにすべてのデータが集合し、全てのコンピュータからそのデータにアクセス可能であること。このコンセプトは単純である。
- 単純であるがゆえにこのコンセプトはパワフルだ。単純は複雑にまさる。
この記事は2006年初頭に書かれたものであり、上の概念だけを見るにこの時点ではデジタルデータをネットワーク上に集約するという概念をメインに説いている。GmailやGoogle Mapsを全面展開していた時期だけに、コンセプトも明確です。
エンタープライズ領域への言及をはじめたのはセールス・フォース・ドットコム、IBM、SAP
2006年時点でGoogleのクラウドコンピューティングという視点はかなりコンシューマ向けのものでしたが、エンタープライズの雄であるセールス・フォース・ドットコムとIBMが2007年からクラウドコンピューティングの概念をエンタープライズの領域に持ち出しはじめました。
米IBMのストラテジー・バイス・プレジデント ウィリー・チゥ氏は日経エレクトロニクスの記事のなかで「ミッションクリティカルもクラウドコンピューティングで」と言い、IBMはGoogleやAmazonと違いクラウドコンピューティングを企業に最適な形で提供すると言っています。それはつまり、信頼性の高い企業向けシステムと一体化したサービスを提供するということらしいが、どうもこのあたりから新たなお金を顧客からふんだくるためのバズワードの臭いがクラウドコンピューティングにし始めます。
最近、SAPもこの流れに乗り遅れまいとこの分野に参入を急いでいると記事にあり、一気に状況がカオスになっています。
明確な目的を持ったAmazonの取り組み
Amazonのクラウドコンピューティングの取り組みは極めて明確です。それはサーバ、ネットワークをすべてAmazonに集約したうえで、顧客には「ストレージ」と「計算リソース」をそれぞれ「Amazon S3」、「Amazon EC2」という形で提供することです。
アマゾンは、Amazon.comサイトの構築と運用で培ってきた技術を生かして、昨年、「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)および「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)というグリッド・ストレージ・サービス/仮想サーバ・サービスの提供を開始し、業界関係者一同を驚かせたわけだが、ミルズ氏が言わんとしているのは、これらの新サービスがユーティリティ・コンピューティングそのものということだ。
これは上の記事でもあるとおり、電力、ネットワークインフラを気にすることなくストレージと計算リソースを顧客が使えるようにするというサービスです。多くのスタートアップがすでにこのサービスを利用しており、先日発生したAmazon S3の影響が多くのベンチャーに影響を与えたのは記憶にも新しいですね。
しかし、Amazonほどの偉大な企業ならこの辺りの障害は易々とクリアしていくと思っています。
まとめ
こうやって眺めてみると、一口にクラウドコンピューティングと言っても各社それぞれ違う思惑で動いていることがわかります。コンシューマ的な感覚としては、全てのデータをネットワークに集約し検索可能にするGoogleの方向性と、ネットワーク・電力インフラを気にすることなくストレージと計算リソースを使った分だけお金を払うAmazonの姿勢はわかりやすいです。ただ、ここにセールス・フォース・ドットコムとIBM、SAPなどが参入してきたため、コンシューマにとっては一気にわかりにくいカオスな概念になってしまったというのがクラウドコンピューティングの現状のようです。
「Web 2.0」のようにバズワードとして一気に陳腐化する可能性もありますが、きわめてわかりにくい言葉に仕立て上げられているため、もしかしたら生き残るかもしれません。シュミット氏の言うようにインターネットに賭けるという方向性自体は間違いはないと思うので、この辺りの各社の動向を一緒くたにしないで、細かく分析する必要がありそうです。