友人のクックパッドエンジニアnegipoくんから以下の本をもらいました。読んでみて非常におもしろかったので、いろいろ考えたことを書いておきます。
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個人的にこの2つが素晴らしいサービスだなと思っているのは、今まで評価されることの難しかったイラスト、レシピという人間のアイディアや知恵が非常に詰まっている創作物に多数の人々から評価される快適なコミュニティを作ることができた点です。Pixivは、日頃から接点のある非常によく考え抜かれたサービスです。男性エンジニアでもお世話になっている人は多いでしょう。だけど、クックパッドがどれくらい考え抜かれたサービスであるかはなかなか料理を作らない男性エンジニアは実感する機会がない。そのすごさを非エンジニア目線で体感させてくれるという点において、非常に良い本だと思いました。
シンプリシティの法則
実は、最近ジョン前田のシンプリシティの法則という本を読んだのですが、クックパッドの発展の仕方は、かなりこのシンプリシティの法則と合致してるな、と思いました。たぶんサービスを作っている人たちはこの本を知らないと思うのですが、ユーザのことを第一に考えて開発を続けたときにシンプリシティの法則と合致した現象が現れるというのは、以下の本の中でもよく言われていることです。
シンプリシティの法則 | |
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- シンプリシティとコンプレクシティはたがいを必要とする
- 感情は乏しいより豊かな方がいい
- 私たちはシンプリシティを信じる
- 決してシンプルにできないことがある
という点です。この解釈をエンジニア的な問題解決を行う過程で導入することは非常に難しい。しかし、クックパッドが採用しているアプローチはこのシンプリシティ的概念を問題解決方法に導入する一つの答えなのかと思いました。料理登録画面の素晴らしさは弾さんのblogでも述べられているので、他の部分を考えてみたいと思います。実際僕も登録画面触ってみましたがこのユーザビリティはやばいですね。
サービスのブラッシュアップの過程で機能を削っていく
やはりサービスを大きくする過程で一番大きな要求はサービスにいろいろな機能を付け加えたいという要望です。この点に関してクックパッドは明確な視点をもっています。それはユーザにとってわかりやすいシンプルなメッセージを伝えることです。この点に関しては注目すべき点は、2006年の時に一言掲示板、質問コーナーなどのような人気コンテンツを削除し、「レシピを載せる」、「レシピを調べる」という過程のみに特化してサービスをブラッシュアップした点です。コメントの機能も最小限でつくれぽのコメントは議論が発生せず、返信も気軽な30文字以内に設定されています。
このサービスのブラッシュアップの過程で機能を削っていくということが非常に難しい。正直、僕も今関わっている製品で機能を削れといわれたら、その削るために必要な社内調整、実務量の多さを考えるとゲンナリします。しかし、社内全体にそういう削る事をよしとするマインドがあるとこれは非常にやりやすい。このあたりの削ることをいとわない姿勢というものを如何に作っていくかという事は、企業の大きなテーマだと思います。
クックパッドが引き受けたコンプレクシティ
さて、機能を削る替わりにクックパッドが引き受けたコンプレクシティ(複雑で煩雑な作業)があります。それが以下の3つです。
- 検索に用いる辞書はスタッフ全員でメンテナンスする
- 掲載されるレシピは人力でチェックする
- 広告やその企画を含むコンテンツ作成能力
まず、「検索に用いる辞書はスタッフ全員でメンテナンスする」はクックパッドが提供する2大機能、レシピを掲載する、レシピを検索するのうち、レシピを検索するに関わる機能です。本の中でも触れられていますが、クックパッドでは例えば、「じゃがいも」という検索文字列がきたとき「メークイン」は含めるが、「メークイン」という検索文字列がきたときに「じゃがいも」は含めないのだそうです。このような方向性を持った辞書を社内スタッフ全員がいつでも書き換えることが可能な形で管理している。また、白菜も白菜と検索してきたときにそれが白菜が含まれるレシピではなく「白菜を可能な限り使いたいレシピ」と最も多いユースケースとして解釈て、白菜をいっぱい使うことができる検索結果を返してくれるのだそうだす。これは、全てユーザが入力するだろう検索ワードをあらかじめ調査しておき、各検索ワードにその検索ワード特有の重み付けをおこなっていることを意味します。これはかなり工数を必要とする作業でしょう。でも、確かに提供する機能が検索機能というものに特化されているからこそできる技でもあります。このあたりのエンジニアリング的手法に頼らない部分が非常におもしろいです。
また、掲載されるレシピをチェックし、もし材料の量といった再現が困難になるレシピであれば、それを直接投稿者に担当が連絡して修正してもらうというようなことも行っているそうです。確かに、クックパッドに紹介されているレシピで作るために情報が不足しているレシピというのは見たことがありません。それどころか、簡単なレシピほどつくれぽという作ってみましたレポートが増えるので、如何に手軽に美味しく作れるかという方向にレシピの淘汰圧がかかっているように見受けられます。この掲載されるレシピの質、方向性を決める部分もコンプレクシティを引き受けた替わりに自分でコントロールできるようになった点かと思います。
最後に「広告やその企画を含むコンテンツ作成能力」ですが、以前negipoくんに聞いた話では、クックパッドってエンジニアが6人程度しかいないらしいんですね。で、残りは何をやっているかというと、レシピのチェックやピックアップレシピの作成、広告として掲載するコンテンツの作成やその企画を行っている人たちが多いと聞きました。つまりクックパッドを解釈するとき、それは一種の料理全般に関するメディアであると考えた方がよいのではないかということです。考えてみたらクックパッド最大のライバルはNHKの「今日のお料理」か「キューピー3分クッキング」、「けんたろうのおとこごはん」くらいでしょうから、この辺りと闘っていくためにはコンテンツ作成能力を鍛える必要がある。そう考えたとき「広告やその企画を含むコンテンツ作成能力」にもっとも人数をかけてユーザに訴求していくというのが一番王道なのはないかと思いました。
まとめ
クックパッドというサービスをエンジニア目線で「シンプリシティの法則」という観点から考えてみました。冒頭で紹介した本は、ここで紹介した以外にもいろいろクックパッドが工夫している点が多数記載されており、Webサービスを作成する人にとって、クックパッドというモンスターサービスがどのように産まれたかを理解する上でとても良い本だと思います。
これはいわば我々エンジニアがモバゲーというサイトがなぜこれほど人気があるのかを当初理解できていなかったことと同じ理屈ですね。接点がないものを理解するときはまとまった情報を取得してしまうのがベターです。クックパッドを今まで利用したことない男性エンジニアほど本書は読む価値があるのではないかと思います。
[参考エントリー]過去にクックパッドのオフィスに行ったときのエントリーはこちら。