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次世代フォーマットがBlu-rayになった決め手は何だったのか

最近、もうHD DVDの話を全く聞かなくなり、そろそろ冷静に評価ができると思うので、次世代フォーマットがどうしてBlu-rayで勝負が決まったのか僕の意見をまとめてみようと思います。きっとVHSと同じように、このフォーマットが決まる理由には諸説もろもろあると思うのですが、日本が不得意と呼ばれているフォーマットを巡る戦いに関してある程度考察をしておく必要はあるかなということで。

前提知識をゲットできるわかりやすいまとめ記事

いろいろBlu-rayとHD DVDに関するまとめ記事はあり、日経エレクトロニクスでたくさんの考察が掲載されていました。その中でもまぁ、コレを呼んでおけば間違いないだろというのが以下のまとめニュースです。

上の記事はほぼ主要なトピックを網羅しています。そのトピックの中でも、Blu-ray対HD DVDの戦いをかなり初期から注目していた自分が主要因なのではないかというポイントは以下です。

  • 暗号化技術の強度
  • ディズニーの他社と異なる空気を読まないBlu-ray支持
  • HD DVD陣営の日和見的な態度

それぞれについてちょっと考えてみたいと思いますがフォーマット戦争とは何なのかを簡単におさらいしておきます。フォーマット戦争を決めるプレイヤーは基本的に映画配給会社がどちらを指示するかで決定されます。たぶん市場に供給される映像ディスクのフォーマットが80%を超えればそれは勝負あったと考えていいでしょう。そんな訳で以下の映画会社をどのように口説き落とすかの勝負なわけです。

  • ユニバーサル
  • パラマウントピクチャー
  • ワーナー
  • ディズニー
  • ソニー・ピクチャー
  • 20世紀フォックス

陣営としてはユニバーサル、パラマウント、ワーナーがHD DVD支持、ソニー・ピクチャー、ディズニー、20世紀フォックスがBlu-ray支持というのがそのスタートポイントです。ユニバーサルとソニー・ピクチャーはそれぞれ東芝、ソニーから資本が入っているのでこの二つが他方をサポートするとしたときが、完全に勝負が決まった時となるでしょう。

コンテンツ保護技術の強度

上記のように如何に残りの映画会社を口説き落とすかの勝負なので、ある映画会社が提示した絶対条件を他方が組み込み、他方が組み込まないという状況が起こったときに状況が大きく変化します。そのターニングポイントの一つはBlu-rayに採用されたBD+とBD Markといた著作権保護技術でした。

特にこのBD+は強力で、もし現在BDプレイヤで利用されている保護プラグラムが破られてしまった場合、その保護プラグラムをコンテンツ企業側が動的に更新できるという仕組みです。もし今のDVDのように世界的にコンテンツ保護技術が破られてしまった場合、このBD+が発動され、BDプレイヤの暗号を更新しないと新しく作成されるコンテンツの再生ができなくなります。どのようなタイミングで発動されるのかは知りませんが、なかなかすごい仕組みです。
この強力なコンテンツ保護技術を支持したのが20世紀フォックスです。HD DVDはここまでのコンテンツ保護技術を導入することはしなかったので、20世紀フォックスは一貫してBlu-ray指示に回りました。

ディズニーの他社と異なる空気を読まないBlu-ray支持

さて、個人的に一番の決めてとなったと考えているのはディズニーの空気を読まないBlu-ray支持です。というのも、ディズニーはかなり初期の頃からBlu-ray支持を強く訴えてきました。上の記事の以下の部分とかちょっとスゴイですよね。

ディズニーの決意はさらに固かった。実はディズニーは現場レベル(ウォルトディズニーカンパニー内の映画部門)では、最初からBDで行くと決めていた。実際、一度は2004年初頭にもBDFに参加するという話があったほどだ。ディズニーが望む次世代フォーマットは、映画とともにキャラクターを引き立たせる各種のコンテンツを大量に入れて楽しませたり、簡単なゲームを入れて遊んでもらうなど、子供向けのエンターテイメントディスクとして優れたものにすることだった。そのためには大容量が必要不可欠だと最初から主張しており、50GBでさえ「そのうち足りなくなる」と数年前から話していたほどだ。
特に現在、ディズニーホームエンターテイメント社長であるボブ・チェイペックは「自分がBD規格を立ち上げてやる!」とばかりに、率先してBDの宣伝をかけていた。全米のショッピングモールツアーを繰り広げ、“Blu-rayはきれい”、“Blu-rayはたのしい”と映画会社自らフォーマットの宣伝を買って出た。家電ベンダーに金を出させてプロモーションするといった考えはなく、自分たち自身で、自分たちが稼ぐための畑を耕そうとしていたのを見て、ディズニーだけは絶対に動かないと思ったものだ。

どうして、ここまでディズニーがBlu-ray支持を強く打ち出したかという話になってよく言われるのが、ディズニーの社風です。他のメーカーがトップがビジネスライクにフォーマットを判断していたのに対して、ディズニーは現場から「(HD DVDの)30Gなんて絶対にすぐに足りなくなる。(Blu-rayの)50Gは絶対に必要だ」という声が最初から上がっていたのだそうです(この辺りは日経エレクトロニクス2008年3月10日号で取り上げられているので、興味のある方はどうぞ)。そしてディズニーは社風として、現場のコンテンツ制作者をリスペクトし、その意見を非常に大切にする企業として知られています。そんなわけで、ディズニーはフォーマット戦争の初期から「ビジネス的にもうちょっと状況を見ようよ」なんていう他社の空気を完全に無視して空気を読まないBD支持を打ち出しました。

圧倒的支持を打ち出す企業が3社になり、Blu-rayは非常に有利に戦えた

映画会社としてはユニバーサルの規模がトップ(30%くらい)なのですが、ディズニーとソニー・ピクチャーが手を組むとその規模はだいたい40%程度になり、立場が逆転します。スタート地点ではBlu-rayを圧倒的に支持するのはソニー・ピクチャーだけだとHD DVD陣営は予想していたはずで、それならユニバーサルのシェアをもってすれば有利に戦えると考えていたはずが、ディズニーが現場の意見からここまで狂信的にBlu-ray支持に回るとは予想できてなく、HD DVD陣営はユニバーサル以外はワーナー、パラマウントなど日和見的な態度だったこと、また、PC側でHD DVDを支持していたマイクロソフトはPS3の立ち上げを少しでも遅らせたいという後ろ向きな理由で参加していたということもあり、終始不利な戦いを繰り広げることになりました。さらに要求していたコンテンツ保護技術の採用により、シェアは少なかったものの20世紀フォックスも一貫してBlu-rayを支持していたため、勝負はHD DVDにとってさらに不利になりました。
フォーマット戦争は、最終的に結果が出て、こうやって振り返ってみて初めてその考察ができるもので、各個人いろいろな意見があると思いますが、僕の考えではBlu-rayが勝負を決めた要因は、

  • 要望していたコンテンツ保護技術が搭載されたことで20世紀フォックスが一貫してBlu-ray支持に回った
  • ディズニーはフォーマット戦争の初期から「ビジネス的にもうちょっと状況を見ようよ」なんていう他社の空気を完全に無視して一貫して圧倒的BD支持を打ち出した
  • HD DVD陣営はユニバーサル以外のワーナー、パラマウントはHD DVDを支持する前向きな理由を持っておらずかなり日和見的態度だった

の3つにあると考えています。その中でもディズニーの初期からの圧倒的な支持の影響がシェア的にも非常に大きく、勝負を決めた主要因だと考えている次第です。

補足

他にもいろいろ要因があるので、その代表的なものをWikipediaから貼っておきます。この中のどれを主要因と見るかは個人の意見が分かれるところですね。

  1. 片面一層の記録容量が25GB、片面二層は50GBであり、それぞれ15GB,30GBのHD DVDよりも容量の面で有利だったこと。これが実は記録メディアとしての決定的な差となった。[23]また、録画用HD DVDメディアはコストにおいても有利点を殆ど見出せず、HD DVD初期の『BDより安く造れる!』という公言に反していた。[24]
  2. 家電メーカーを積極的に獲得し、その販売網を利用できたこと。特に販売網の規模と緻密さで松下電器産業(現:パナソニック)の存在が大きい。
  3. 「ブルーレイ規格は2層化や低価格化は不可能」と、HD DVD規格の優位性を唱えていた東芝だが、ブルーレイ陣営側は東芝の予想以上にそれらの欠点を克服する新技術を次々と開発して行き、記録メディアの価格も量産効果などによりブルーレイの方が安くなっていったこと[25]
  4. HD DVDの極端な低価格戦略が規格の普及に功を奏さなかったこと。最後まで、HD DVDがソフトの販売比でBDに勝ることはなかった。[26]
  5. 容量、プロテクトの強さ、またパッケージ販売比からBDに参入する企業が徐々に増え、ソフト販売比からHD DVDの要といえるワーナーがBD専売化を決定したこと。[27]これが確定的となり、東芝は全面撤退を決定した。
  6. HD DVDという名称は、市場にとって新鮮味に欠け、また混同されやすく分かりにくかった。[24]
  7. 三洋、NEC、マイクロソフトなどもHD DVD陣営であったが、開発企業は実質東芝一社であったため、録画機などは東芝一社しかラインナップが存在せず、対してBD陣営は幅広い製品を用意することが出来た。[24](なお、東芝は国内市場を余り重視せず、北米の再生機市場に力を入れていた。)
  8. ブルーレイ対応のプレイステーション3が、日本のみならず、アメリカ合衆国・オーストラリア・韓国・ブラジル・香港・ヨーロッパなど16各国で発売されたこと。またプレイステーション3は容量にかかわらず全てのゲームがBD-ROMで提供されることになっていたため、量産効果によってBDの製造コストも低減されたこと。