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ソフトウェア開発において確信的に身も蓋もないことを指向すること

村上隆の「芸術起業論」を読みました。この「芸術起業論」を読んだのは、以前チーム☆ラボに伺ったときに社長の猪子さんが自分の作品を語る時にその位置づけとして、ジョン前田と村上隆の話をしていたからです。

芸術起業論芸術起業論
村上 隆

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ジョン前田に関しては以前以下のエントリーで「シンプリシティの法則」を紹介しました。「シンプリシティの法則」は大変面白い本で紹介して読んでくれた@negipoくんにも好評のようで、半年ぶりくらいにpologが更新されていました。今回はシンプリシティの法則は置いといて「芸術起業論」についてです。

シンプリシティの法則
シンプリシティの法則John Maeda 鬼澤 忍

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starsシンプリシティの法則を読んで
stars土井英司さんが神田昌典さんとの対談でお薦めしていた本
stars「シンプルさ」と「コンプレクシティ」のハザマ
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「芸術起業論」を読んで感心した村上隆の行動原理

まず最初に述べておきますがこの本はかなりおもしろいです。アートのみならず、ソフトウェアやサービスを作る人にはかなり強くお勧めできます。というのも、要はこの「芸術起業論」に書かれているのは凡人が成功するためにいかに戦略と泥にまみれる勇気が必要であるかを説いているからです。
村上隆といえばおたくからは蛇蝎のごとく嫌われている存在です。それはいわば今まで日本のおたくが自分たちが楽しいからという理由で盛り上げてきた文化を等身大フィギュアやアニメ的なイラストレーションなどの最も切り売りしやすい形でアートとして海外に売り込んだからだと考えています。最終的にこのおたく文化の切り売りはルイ・ヴィトンというおたくとはある種対極の存在であるいわゆるスウィーツ側の文化にまで及んでしまいました。このような内向きな文化を部外者が切り取って、好きなように加工して発信することを嫌う気持ちもわかります。
ただ、この通常のおたくから見たらまさしく身も蓋もない下品な日本文化の切り売りというのが、村上隆に言わせると日本のおたく文化を世界のアートの文脈に載せる上で必要不可欠なことだったというのです。日本のおたく文化をはやくアートの文脈に載せないと欧米の人たちに勝手にルールに作っておたく文化を評価してしまう。その前に日本人が自分たちに力でアートという文脈におたく文化を位置づける必要があると考えたようです。この本では特に等身大フィギュアを例にいかに自分が日本のおたく文化を世界に発信したかを書いているのですが、その方法論のメイン部分は海洋堂への泥臭い営業活動です。この目的のためならいくらでも泥にまみれてやるという姿勢は一般的な芸術家というよりはタフな交渉をこなす起業家です。このあたりの行動原理に感心しました。

ソフトウェアにおける身も蓋もなさの重要性

この本を読んで自分のソフトウェア開発においても、もっと身も蓋もないわかりやすさを追及する必要があるなと感じました。
例えば自分が未踏で開発したcoRocketsを例に考えると、coRocketsの位置付けはWebからコンテンツを収集してくれるDLNAサーバです。

自分の評価としては便利な機能は備えているので家にPS3などがあれば便利だとは思います。ただ、ソフトウェアとしてみるとセールスポイントが非常にわかりにくいです。そもそもDLNAという概念自体がわかりにくいことが根本的な問題なので、ビジネスとして考えると「優秀なDLNAサーバソフトウェアを作る」ということは、かなり負け戦感が漂ってきます。ただ、今後DLNA機能をAV機器が標準サポートしてくれてDLNAという概念がもっと隠蔽されてきたときに、DLNAサーバとして確固たるポジションを築くということにおいて価値がないわけではない。そのために必要なことは身も蓋もないくらいわかりやすい他のDLNAサーバにはないメリットを追求していくことだと思います。この点の訴求が甘かったと考えさせられました。
なんかちょっと漠然とした話になってしまいましたが、身も蓋もないわかりやすさの追求というのがちょっと自分の中の今後のテーマになりそうな感じです。日本にはこの「身も蓋もない」感じが圧倒的に不足していると思うので。
あと、戦略についてはちょうどfladdictさんのエントリーを読んで、いろいろ考えさせられたので紹介しておきました。

まとめ

途中から自分のソフトウェア開発の話になったしまいよくわからなくなりましたが、、「芸術起業論」はアートのみならずサービスやソフトウェアを作っている人たちにとってもたくさんの示唆を与えてくれる本だと思います。「村上隆のこと嫌いだから」などと思っている人も、むかつくかもしれませんが読んでみる価値はあります。むかつくということも含め、少なくとも多くの人に何らかの感情を巻き起こした時点で彼が現代芸術家として一流であることは疑いようがないので。
この本を読んで「ソフトウェア開発において確信的に身も蓋もないことを指向すること」の重要性についてちょっと考えさせらたので、もうちょっと考えをまとめてからまたエントリーにまとめたいと思います。