id:kawangoさんのエントリーは自分の興味ともろにかぶっているため、非常におもしろく読めますし、参考になります。
じゃあコンテンツはお金をかければ必ずヒットして儲かるかというと、そんなに甘くはない。コンテンツの質のはなしをしているわけではない。投入した金額に見合った収入は得られるのかという話だ。ここが簡単に儲かるようだと、どんどん競合相手が増えて、どんどんお金をつかってどんどん儲かるということになる。そんなわけはないから、ふつうはヒットが確実なぐらいにお金をかけたらヒットしても赤字になるということだ。
特に上の部分を読んで、ソニーピクチャーエンターティンメントが早期に採用したハリウッドのコンテンツの原価回収の戦略について思い出しました。
ハリウッドの公開第一週の重要性
ハリウッドはid:kawangoさんが述べたようなコンテンツの原価決定プロセスをかなり早い段階から研究しています。ハリウッドのコンテンツ市場の実態はジェトロの資料などが見やすいです。
- 北米におけるコンテンツ市場の実態(輸出促進調査シリーズ) 2007年3月 | 調査レポート - 国・地域別に見る - ジェトロ
- 北米におけるコンテンツ市場の実態2008-2009(2009年3月) | 調査レポート - 国・地域別に見る - ジェトロ
これらの資料の中でも特に以下の資料がわかりやすいのですが、ハリウッド映画の半分くらいはじつは売り上げの3文の1、ロングランしなかった場合などは半分くらいを公開第一週で稼いでしまいます。
これは考えてみればなかなか興味深い話です。公開第一週というのは、口コミもほとんど効かないので純粋に映画の話題性やプロモーション、コンテンツの前評判などが鍵となってきます。もちろんヒットする映画は公開第一週以降もずっとトップチャートに居続けるのですが、もしあるていど売り上げをコントロール可能な公開第一週でコンテンツの原価を稼いでしまう手法が確立すれば、コンテンツによる大損というのは極力排除することが可能なはずです。これに関連する映画の原価と興行収入の関係性についての研究は映画ファンドが発達したハリウッドでは行われ続けているのですが、この公開第一週で原価をある程度稼ぐ戦略を採用したのはたぶんソニー・ピクチャーエンターティメントが最初なのではないかとおもいます。最近はほとんどのハリウッド会社が採用しているので、特に珍しい手法でもないのですが。
コンテンツへはおもいっきりお金のかけた方が安全
公開第一週で原価をある程度稼ぐ戦略は僕が今勝手につけた名前です。きっときちんとした名前があると思うのですが、かいつまんで書きますと、過去の映画を調査した結果以下のことがわかってきました。
- 映画はお金をかけて全世界的にきちんとプロモーションした場合、原価のかなりの額を公開第一週で取り戻せる
- 中途半端にお金をかけて作る映画が一番ヒットしない確率が高い。つまり、危険である。10億円で映画を5本つくるよりも50億円で映画を一本作った方が安定してヒットし、原価が回収できる。
- お金をかけない場合はとことんお金をかけない方が原価を回収できる可能性が高い。
なんとなく最近のハリウッド映画の傾向として感じている人も多いと思うのですが、日本でもしっかりプロモーションされる話題の映画というものが定期的に公開されている感じがすると思います。逆に公開から1ヶ月以内で消える、ちょっと有名なハリウッドスターは出ているんだけど、イマイチ話題になっていない映画というものが減っているように感じませんか。スパイダーマンとかあんなに日本でプロモーションして大丈夫なのか?と不安にもなるのですが、これは上の法則に従ってハリウッドの会社が大作映画を作るときはしっかりお金をかけて映画をつくりプロモーションを行い、公開第一週で原価を取り戻す戦略を採用しているためです。逆に中途半端なものをつくるのが一番危険なので、そのような中途半端な位置づけの映画はかなり減っています。その結果、ネタ不足、大作主義に走っているということでもあるのですが、多くの映画会社がこの大不況でも安定して利益を上げてきたのは、この戦略を利用して収入を安定させていることも寄与しています。
まとめ
コンテンツの原価とヒットの関係性を踏まえたハリウッドの戦略について簡単に紹介してみました。かなり有名な話なので、たぶんマーケティングの本などには良く載っている話なのではないかと思うのですが、たぶんコンテンツ業界に興味がない人は聴いたことがない話かもしれません。実はゲーム業界でもある程度このコンテンツ戦略があるのですが、ゲームはプラットフォームとの関係性があるため映画より複雑です。あと、それほど研究もすすんでいないと思います。このあたりも時間を見つけて紹介したいと思います。