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「インターネット業界人が答えを知っている必要がある10の質問」で2011年を考える

みんな大好きTechCrunchが掲載した「インターネット業界人が答えを知っている必要がある10の質問」が投資家向け情報ということを差し引いても非常によくできており、一度ブログ取り上げたいと思っていた。

投資銀行のMorgan Stanleyのアナリスト、Mary Meekerは今日(米国時間11/16)、Web 2.0 Summitでインターネットの世界的トレンドについて講演した。そのプレンゼンテーションスライドを入手できたので、ここにその「インターネット業界人が答えを知っている必要がある10の質問」を掲載し、概要を紹介しよう。

Internet Trends Presentation
一応、ブログのタイトルもFuture Insightなのでたまにはこんなヘビーネタもよいかと思い、各質問ごとにコメントつけてみる。

1. グローバルなトレンド: どの国、のどのプレイヤーが業績を上げているか?アメリカより優れた(あるいは少なくとも、異なる)アプローチを取っているのは誰か?

将来の動向を考える上で最高の材料が「人口動態」であるというのはドラッカーの言葉だが、それはインターネットでも変わらない。インターネットのユーザ数を考えると上位5位の地域にユーザの46%が集まっている。以下のスライドに注目してほしい。

ユーザ数に並べてみると、

  • 1位: 中国 3億8400万人 人口比率の29%
  • 2位: USA 2億4000万人 人口比率の76%
  • 3位: ブラシル 7600万人 人口利率の39%
  • 4位: インド 6100万人 人口比率の5%
  • 5位: ロシア 6000万人 人口比率の42%

となる。ただ中国のインターネットはGFWと参入規制に守られているためなかなかビジネスを始めるのは外国起業には難しいとい聞くし、今後のインドの中長期的な発展を考えるとアメリカがメインの主戦場であることはかわらないまでも、将来的にはインドこそが人口比率的には世界最大のマーケットになるのは間違いない。最近、多くの友人、知り合いがインドに勉強しにいったり、現地法人で働きはじめているがやっぱり世界は動いているなーとおもう。ただし、発表の冒頭で「2011の注目すべきモバイル市場はアメリカ、日本、インドネシア、中国、ブラジルだ」と述べられているように短期的に注目すべき国は別だ。また、おもしろいデータとして世界最大のSNSはFacebookではなく中国のTencentであるというのも面白い。その収益が2009年にアバター関連の売上で1400億円というのも桁外れである。
なお、人口動態の話は以下の本などに詳しい。ドラッカー最後の著作であり非常に読みやすい本なのでおすすめ。

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2. モバイル: 他のどの「ニュービジネス」より急成長中―あなたのビジネスは波に乗っているのか、乗り遅れているのか?

このスライドでわかりやすい動きはモバイルインターネットの伸び、特にiPhoneとAndroid関連の伸びである。現時点(CQ3:2010)で出荷台数的にスマートフォンは

  • 1位: Nokiaシンビアン 37%
  • 2位: Android OS 25%
  • 3位: iOS 17%
  • 4位: ブラックベリー 15%
  • 5位: その他 6%

となっておりが、グラフをみてもわかるとおり、来年度中にAndroidが世界最大の出荷台数になるのはほぼ確定である。逆にiOSは伸び悩んでおり、このまま20%程度を推移するように見られる。将来的な予想はスライドに書かれていないが、個人的にはAndroid OSが50%程度、iOSが20%、他が残りの市場を分け合うような市場になるのでないかと思っている。というのもiPhoneにとって普及のネックはiPhoneと組んだキャリアが日本とアメリカという2大市場で概ねその地域で電波があまりよろしくないキャリアと組んでいるという点である。このキャリア選択はAppleの収益率に大きく影響しており、例えばAppleがソフトバンクと手を切って他のキャリアでもiPhoneを展開するかどうかは難しいところだが、もしAppleが利益率よりもシェアを取りに行く決断をしたら2011年の大きな動きとして有り得る話だと思う。

3. ソーシャル・エコシステム: どの陣営に入るか? Apple、Google、それとも…Facebook?あなたの会社はソーシャル化でどんな影響を受けるのか?

ここはスライドも一枚だし、あまり見るべき点もないが、Facebook、Apple、Googleが現在の3台プラットフォームであり、この動きが今後の技術の発展の方向性を決めるというのは間違いない。

4. 広告:  大規模なイノベーションが始まる―どうやって利益を得るか?

さて2011年も変化の激しそうな広告である。以下のスライドは是非みてもらいたい。

USAにおける2009年の個人が消費するメディアの時間とそこに注ぎ込まれている広告費の対比表である。非常に面白いデータで、例えばインターネットは28%の時間が使われているがそこに投下されているお金は広告費全体の13%である。TVは時間が31%で広告費は37%とまだバランスが良い。逆に出版業界はかなりギャップが目立っており12%しかユーザは時間を咲いていないのに広告費の26%が投下されている。ユーザのセグメントを無視すれば、長期的にみたらこのギャップは解消する方向にむかうはずなのでインターネットが一番大きなチャンスがあるのは間違いない。
個人的にもTwitter、Facebookのソーシャルネットワーク経由での広告が2011年はかなり本格的に広がってくるとおもう。ただ、日本では引き続きテレビCMでガラケーに人を流しこみ続けるコンボが最強であり続けるとおもう。

5. 通販:  サービスは迅速、簡単、かつ面白くなければならない。すべてはゲーム化する?

通販というより正しくコマースなのだが、コマースのゲーム化の部分が非常に興味深い。スライドで掲載されている例は以下の4つである。

  • Location-Based Services: 地理情報とショップ情報を結びつけて近くで良い店を探せるサービス
  • Transparent Pricing: ローカルストアとWebでの価格差を一発で確認できるサービス
  • Discounts: Giltに代表されるような招待制ベースの時間を限定したセールサービス
  • Immediate Gratification: AppStoreのようなオンラインコンテンツストア

これだけみても2011年は様々な新しいコマースの形が現れそうだ。これは大別すると、

  • グルーポン、Gilt系のサービス: 売る側に発生していた機会損失を効率的に消費する仕掛け
  • 地理情報、価格比較系のサービス: ユーザ側に発生していた機会損失を防ぐ仕掛け

と考えることも出来、この二つの駆け引きをゲーム性がつなぐという考え方はおもしろと思う。

6. メディア:  オンデマンド・ビデオの異例に急速な普及は、ビジネスに何を意味するか?

北米のトラフィックのうちNetflixとYouTubeでピーク時は31%を占めるってすごいと思うが、ここで注目すべきはストリーミング配信自体ではなくNetflixという企業だと思う。日本ではNetflixを知っている人はあまりいないと思うが、今やNetflixはWii、XBOX360、PS3、Apple TVなどすべてのテレビに接続するデバイスにおいてなくてはならないサービスである。月間7.99ドルで動画を見放題なのだから、正直日本でもサービスがスタートしたら契約しないほうがおかしい類のサービスなのだが、Netflixは回線が細い地域向け(USAでは結構多い)にDVDの配送サービスも行っており、このネット配信とDVDの配送サービスをあわせても9.99ドルでサービスを受けられるというのは日本の現状からみたら本当に破壊的イノベーションもいいところだと思う。

7. インターネット企業の盛衰:  わずかこの6年での変化は衝撃的。次の4年に備えるためには何をすればよい?

これは結構おもしろいスライドなので見てほしい。

速度の速いインターネットの世界の6年間といったらもう何が起きてもおかしくないが、楽天やNHNが頑張っていたり、Akamaiがランキングに登場してきていたりと変化の激しさがよくわかる。

8. Steve Jobs:  彼の驚異の成功の秘密は? あなたの会社の秘密は?

いまさらSteve Jobsについて語るのも、Larry Ellisonの彼はエンジニアの頭脳と芸術家の心を持っているという評価の通りSteve Jobsが次に賭けようとしている領域にはAppleの大量のマネーも流れこむので、もっとも注意すべき動向がSteve Jobs個人であることは間違いないと思う。以下の本はかなりおもしろかった。

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
カーマイン・ガロ 外村仁 解説

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9. 容赦ない変化:  IT分野で次に起きるのは何か? 一般ユーザー、既存プレイヤー、新興プレイヤーは何を求めるか?

既存のプレイヤー、新興プレイヤーのまとめも面白いがモバイルにおいて注目すべきポイントのまとめもおもしろい。

  • More Coneected: よりつながること
  • More affordable: より良心的な値段に
  • Faster: 起動、検索、接続、支払いをすべてレイテンシなしで
  • Easier to Use: より革新的なインターフェースとよりローカルなサービスをすべてのひとに
  • Fun to Use: ソーシャル、カジュアルゲーム、リワードドリブンマーケティング
  • Access Nearly Everything: Music、Video、ドキュメントをよりクラウド側に
  • Longer Battery Life: 何時間でも使い続けられるバッテリーを

このように眺めてみるとモバイルデバイスに求められていることがみえてくる。これらの革新はキャリアが起こすには時間がかかりすぎるので、恐らくどこかのベンチャーがさらっといくつかのことを実現していくのかな。
個人的に興味のある部分は現在のかなり使いにくいと思われているスマートフォンのユーザーインターフェースがどのように変わっていくかだけど、なにかAppleがまたやってくれそうな気がする。あと、一番欲しいのはバッテリーの革新だけどここが一番難しそう。

10. まとめ:  従来、大企業は広汎かつ急速な変化に対応できない傾向があった。これからもそれは変わらないのか?

各社の動向がスライドでまとめられているが、すでに大企業であるApple、Google、Amazon.comはプレイヤーとして業界のなかで非常に早く動いている。すでに大企業というくくりは変化に対応できないというものから変わりつつあるのだとおもう。
この話を聞くと僕は「赤の女王」を思い出す。「赤の女王」とはルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する人物で、彼女が作中で述べる「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」というのが現在のインターネット業界の状態なのだと思う。
なんかあと5年くらいしたらこれらの企業をくくる新しい名前が出てきそうだが、2011年も非常におもしろくなりそうだ。

さいごに

というわけで、「インターネット業界人が答えを知っている必要がある10の質問」をざっと眺めてみた。こうやって見てみると、どこが注目されるているかがわかって非常におもしろい。日本でもなんかおもしろいことが起こればいいなーとおもいつつ、自分も2011年も頑張っていきたいと思う。