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Kindle Fireに搭載されたクラウド型ブラウザAmazon Silkがアマゾンにもたらすもの、もたらさないもの

各所で話題のKindle Fireですが、久々にこれは試してみたいというデバイスですね。
iPadと勝負できるタブレット端末を作るとしたらロープライス、かつ目的特化の一点突破型だと思ってましたが、まさにAmazonが発表したKindle Fireは199ドルかつAmazonで購入したコンテンツを自由に閲覧でき、7インチタブレット、液晶もかなり良さそうという完全にiPadとは異なるセグメントを狙い撃ちした「ぼくがかんがえたさいきょうのたぶれっと」みたい。

これは売れるでしょ。というか日本で発売されたら僕も絶対買うし。というわけで、Kindle Fireの話はここまで。各所で絶賛中だし。ここではこのKindle Fireに搭載されたクラウド型ブラウザAmazon Silkについて考えてみたい。

Amazon Silkのすごさ

Amazon Silkがどんなブラウザかというと、以下のエントリーを見てもわかるとおり、画像の縮小などのレンダリングの一部をアマゾンが誇るクラウドコンピューティングプラットフォームAmazon EC2で行うというブラウザ。

今までもレンダリングの一部をサーバ側で行うブラウザは各所に存在し、その利便性の高さは証明されてきた。キャッシュなどは抜群に良く効くようになるし、なにより今アメリカで特に問題になっている通信量の削減なども予め画像をクラウド側で圧縮するようになれば効いてくる。そしたら3G機能が搭載された時、キャリアにも非常に優しい。

でも、僕が一番気になったのは上記エントリーに記載されたこの記載である。

機械学習により、利用者のパターンを学習する。ニューヨークタイムスのトップページを開いたら、次はどのカテゴリをクリックするのか予測してロードしておく。

勘が良い人ならすでに気づくと思うが、Amazon Silkを通して、アマゾンはユーザーのモバイルブラウジングの全てのデータを手に入れることができる。しかもアマゾンとの購買履歴との関連性付きだ!

Amazon Silkがアマゾンにもたらすもの

一部の業界ではブレインパッドの上場などを通して、加熱しているビッグデータ議論だが、このAmazon Silkがアマゾンにもたらすユーザーのブラウザ上での全行動履歴というものがどれくらいの価値があるかをきちんと判断出来る人はそんなに多くないと思う。僕もきっと何かおもしろいことができるんだろうなー、とは思うが、実際にではどんなデータ解析ができるのか?ということを考えると、そのあまりの可能性にどこから分析したらよいのか途方にくれる。
しかし、アマゾンはこれまでも自分たちの最大の強みはデータであると言ってきた企業だ。アマゾンがA/Bテストを駆使し、またユーザーの購買履歴を駆使して売上を伸ばしてきたことは有名だが、このノウハウがついにユーザーのブラウザの全ログデータに活用されるとなると、どのようなことができるか?恐らく、モバイル体験において分析できないことはない。現状、多くの企業が喉から手が出るほど欲しい、ユーザーのモバイル体験のログデータをこれでアマゾンはAmazon Silkでブラウザを快適に動作させる、という大義名分のもと取得することができる。このあとに起きることはきっと僕達にとっても未知の領域である。だけど、アマゾンがこれを分析しきるノウハウとプラットフォームを備えた企業であることだけは明白だ。

Amazon Silkがアマゾンにもたらさないもの

ただ、このようなデータを預かるということは一般的にかなりリスクの高いことでもある。そのプラットフォームのセキュリティに対する信頼性は今まで異常に厳しく問われることになりし、仮にAmazon EC2が止まった時にAmazon Silkの機能が制限されるとしたらAmazonが背負ったリスクも相当のものであることは明らかである。
また、このようなユーザーのログデータ解析において、解析時にどのようにユーザーの匿名性を担保するか?という議論も今後加熱すると思われる。すでにデータログを匿名化する研究は特に欧米のビッグデータ界隈においてビックトピックだが、この部分が特に厳しい欧州でどのような反応があるか?を考えると、たとえば、Googleのドイツでの事例などを考えると、結構なリーガルリスクを抱えることになる。

しかし、そんなリスクで引き返すようでは覇権は取れないし、アマゾンはそんな企業ではない。ここからの展開が非常に楽しみだ。

まとめ

というわけで、Kindle Fireに搭載されたクラウド型ブラウザAmazon Silkがアマゾンにもたらすもの、もたらさないものについて考えてみました。個人的にもこれほど興味を引かれたデバイスは久しぶりなので、なんとか手にとって触ってみる機会を見つけたいと思います。