昨日のエントリーでFacebookが展開するクローズドなソーシャルメディアに対するGoogleの焦りについてを説明しました。
ただ、前回のエントリーではこのあたりの説明が不十分だったので、今回のエントリーではどうしてGoogleがこんなに焦っているのかを説明してみたいと思います。また、今月号のクーリエ・ジャポンにはこのGooogleとFacebookのバトルを特集したページがあり、なかなか読み応えありました。お勧めです。
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Googleの基本戦略のおさらい
まずは、クーリエ・ジャポンの特集「「ウェブの未来」を賭けた戦いが始まった」から。現在、Googleは完全にFacebookとのバトルに備えた体制を整えており、新CEOのラリー・ペイジが全てに優先してGoogleのソーシャルプラットフォームであるGoogle+を開発させています。現在は全社員の一部のボーナスをソーシャル部門と連動させるようにしているとのことです。
ここで改めてGoogleの基本戦略をおさらいしてみます。Googleの基本戦略はインターネット自体のサイズの増加に比例してインターネット内で行われる検索の回数を増やしそこに流通する広告(アドワード)を増やし、インターネットの巨大化にあわせて自社の利益を巨大化させる、というものです。
どうしてGoogleはここまで焦っているのか
ただ、この戦略にはいくつか暗黙の前提があります。それはGoogleの検索の品質が世界最高水準であり、人々がGoogle検索を利用する、ということです。この前提が崩れるとインターネットのサイズに比例してGoogleの利益を巨大化させるという戦略がとれなくなります。そして、今まさに起きているFacebookの拡大はこの前提をひっくり返すことなのです。
そもそもGoogleの検索システムというのがどのようにできているかというと、まず、インターネットをくまなくGoogleのコンピュータがクロールして、検索システムにとって有用だと考えられる情報をよりコンパクトなデータとしてサーバに格納します。たとえば、どのサイトとどのサイトがどのようにリンクしているか、リンクを表示しているテキストはなんなのか?など、数千に及ぶパラメーターが検索には利用されており、このパラメータを情報工学的手法を駆使してコンパクトにし、高速にアクセス可能にした上で、検索文字列に対して最も有益と思われるページを返すシステムが検索システムです。
この検索システムを構築する上で、情報工学的に制約があります。それは主に以下の2つです。
- Googleのクロール対象がインターネットの全体、すくなくともクロール対象外の情報が統計的に無視出来るサイズであること。
- インターネットの情報のネットワークのハブとなる存在がクロール対象に含まれていること
まず、前者ですが、この条件は非常にわかりやすく、クロール対象がインターネットの全体に近ければ近いほど正確な検索が可能になります。クロール対象外のものがあっても良いのですが、それは統計的にみて無視出来るサイズである必要があります。クロール対象外のサイズがある水準に達したときに一気に検索の品質は落ちます。そして、Facebookのサイズの肥大化はこの閾値を超える可能性があり、すでに超えている分野も欧米ではちらほら見え始めています。
次に後者ですが、これはちょっとわかりにくいかもしれませんが、インターネットのリンクはある一つの性質を備えています。それはハブと呼ばれる多数のリンクを備えたサイトが存在し、そのハブ同士がつながることでスケールフリーネットワークと呼ばれるネットワークが形成されているというものです。これはバラバシが提唱した概念で、少々古いですが、以下の本などで詳しく説明されています。
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Facebookとの情報の非対称性がGoogleにとって致命的である理由
このFacebookとの情報の非対称性がGoogleにとって致命的である理由は明白です。それは、将来FacebookはFacebook内の情報を利用して検索システムを作成できますが、Googleはそれが絶対にできません。優秀なエンジニアが多数存在する場合、検索システムを構築することはそれほど難しいことではありません。この情報の非対称性の一点において、Googleは即死につながるリスクをこれからずっと抱えながら事業を展開することになってしまいます。これは経営陣にとっても、株主にとっても看過できることではありません。これを恐れてGoogleがGoogle+の内容をGoogleの検索に反映させるような現在反発を受けることを強行しています。
まとめ
どうしてGoogleが強硬にソーシャルメディアを構築しようとしているのかをGoogleとFacebookの情報の非対称性という観点からまとめてみました。ご意見、ご感想などもしあれば、Twitterやっているので、@gamellaに送っていただければ。以下の本の最終章に、Googleの焦りの社内風景が描画されており、非常に面白いのでおすすめです。
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