[追記] 本件のKDDI側の対応が記載されていますので、是非ご一読ください。
auがau one marketというau独自のアプリマーケットに絡めて、ターゲット広告を開始しました。
しかも、この広告の解約方法がなんと電話するのみという仕様です。
メールアドレスと2年契約によりユーザーが自由に選ぶことが実質出来ないキャリアがターゲット広告を行うことの是非についての議論やセキュリティ、プライバシーに関する議論もあると思いますが、今回はその話を置いといて、この件を一つのケーススタディとしてアンドロイドというプラットフォームの特性を考えてみようと思います。
Androidの通知バーの存在価値が下がることの影響
ユーザーにとって重要な情報が集約されるAndroidの通知バーに広告を差し込むという行為は、長期的に見たらプラットフォームへのダメージにつながります。通知領域に重要な情報が通知されるというのはスマートフォン用のOSとしてはUX(ユーザーエクスペリエンス)の生命線みたいなもので、通知バーにいらない情報がくればくるほど、そのシステムに対するユーザーの信頼性は低下していきます。
例えば、同じ通知バーに広告配信を行うアンインストールできないアプリが10個あって、その10個のアプリは毎日1個の広告を配信してくるような事態を考えてください。毎日10個もいらない通知がきて、それが溜まっていくならもう通知バーを見るユーザーはいなくなるでしょう。通知バーというのはそれくらい慎重に設計する必要ありますし、iPhoneはこのあたりの管理はアプリごとにかなり個別にユーザーがいじれるようになっています。このあたりの設計思想に関してAppleは本当に外しません。10個同じ事をするアプリが登場したら破綻するようなことができてしまうプラットフォーム、それがAndroidの特性なのです。
Googleはプラットフォームをソースコードレベルでしか管理できない
GoogleがAndroidの開発を主導していることは周知の事実ですが、名目上AndroidはOpen Handset Allianceというグループが共同で開発しているものであり、基本的に最新のソースコードにアクセスしない限りは、Androidを利用することのGoogleの許可は不要です。つまり、現在Googleはプラットフォームをソースコードレベルでしか管理できず、進化の方向性を自分の都合の良い方向に持っていくことはできても、すでに運用中のAndroidデバイスをどうこうする権利は保持しません(特許などの裁判とかして販売停止にはできると思いますが)。よって、Androidの現行機のUXがどのように守られているかというと、それはデバイスを売りたいと考えているハードウェアベンダーが頑張ってAndroidデバイスの使い勝手を良くしたい、そして売りたいというモチベーションによるものです。なので、GoogleとハードウェアベンダーのAndroidというプラットフォームに対する利益は一致していると考えることができます。
キャリアというもう一つのステークホルダ
ただ、携帯電話にはここにキャリアというもう一個のステークホルダが存在します。キャリアにとっては、ユーザーのUXよりもまず現在自分の通信帯域を圧迫するAndroidというプラットフォームをどうにかすること、願わくば現在全く金になってないAndroidが大量に産み出すネットワーク通信のという金食い虫からなんとか利益を上げることが第一です。だって、どんなに素晴らしくいUXであっても3Gネットワーク網が破綻したらキャリアは終わりですから。別にこの悲鳴はauだけが上げているわけではなく、docomoも先日の大規模通信障害のように苦しんでいます。
- http://www.nikkei.com/tech/personal/article/g=96958A88889DE1EAE1E0E2E4E1E2E0E4E2E3E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2;dg=1;p=9694E3EAE3E0E0E2E2EBE0E4E2E6
つまり、Google、ハードウェアベンダーと全く違うモチベーションでキャリアは動いており、今回の動きはその一端であると解釈することができます。
独占禁止法のような縛りがAndroidには通用しない
しかし、例えばWindowsが自分たちのユーザーへの優位なポジションを利用して広告を配信しようものなら、米司法省が黙ってなかったでしょう。去年、マイクロソフトの12年にわたる独禁法違反に関する裁判が終了したことを覚えている人はあまり多くないかもしれません。この裁判に対して米司法省は以下のようなコメントを出しました。
司法省は発表文で「Microsoftの裁判とその終局判決の結果、企業の競争は公平で透明性のあるものに変わり、消費者はより多くの選択肢を得られるようになった。和解条項はMicrosoftが米国の企業や消費者を害する行為を繰り返すことを阻止した」としている。
ただ、Googleは独占禁止法にMicrosoftが如何に苦しんだかは研究し尽くしてますから、予めOpen Handset Allianceという団体を設立して、将来的に独占禁止法にひっかからないように対策をしていたわけです。たとえば、現在Gmailは米司法省の監視下に置かれており、Google BuzzのようなGmailの圧倒的な優位性を利用したソーシャルメディアの展開に関してはプライバシーの配慮に関する厳重注意を受けました。
ただ、AndroidがGoogleのコントロール下に厳密にはないことが、このような事態を生み出し、結果的にiPhoneとのUXに関する勝負で後塵を拝する結果にもつながっていると考えることが出来ます。僕がGoogle+が難しいと考えている大きな理由がこれで、現在Googleは自分の圧倒的に有利なポジションをGoogle+に活用できない状態にあります。このような制約があるにも関わらずFacebookに対して挑戦者という立場はイノベーションのジレンマの一種と考えることもできるかと思います。
まとめ
auのターゲット広告を一つのケーススタディにアンドロイドというプラットフォームの特性を考えてみました。ご意見、ご感想などもしあれば、Twitterやっているので、@gamellaに送っていただければ。同じ本ばかり紹介していますが、以下の本はこのあたりのDon't be evilとソーシャルプラットフォームに関する兼ね合いを描いており、非常に面白いのでおすすめです。
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