特集によって品質に著しい差があることでおなじみのGOETHEですが、2012年5月号の安藤忠雄特集はあたりです。これは面白い。
![]() | 幻冬舎 2012-03-24
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子どもへの教育投資コストが報われない社会に突入する
従来、子どもの教育への投資というものは、基本的には塾にいかせ、きちんとした高校に入れて、さらに頑張って勉強させ、東京大学のようなきちんとした大学に入れることが王道でした。というか、今でもこれが王道だと思いますし、きちんと勉強して東京大学に入ることができる学生さんは素晴らしいと思います。
ただ、実はこの「自分たちの国の大学に入り、きちんとした教育を受ければ、社会で活躍できる人材ができる」というのは先進国の特権というか、その国の言語できちんとした教育を受けることができ、かつその国で学んだことを活かす場があるという暗黙の前提があります。もし、この前提がないなら、自分たちの国ではなく、より活躍のある場の国の大学に行き、その国の文化を学び、人脈を作った方が割がいいわけです。
今まさに保育園、幼稚園の子どもが成人する2030年といえば、日本の人口がかなり減っており、高齢化社会もますますすすんでいます。たぶん、これから徐々に顕在化してくると思いますが、おそらくあと10年もしたら、就職するためには学歴社会のガチのトップになるか、留学するしかない、という韓国に似た状況になってくるかもしれません。
人口構成の遷移を考慮しない教育は無駄になる
僕はドラッガーが最後に書いた「ネクスト・ソサエティ」という本が大好きなのですが、この中でもっとも予測可能である未来というのは人口構成の遷移からわかる、という言葉があります。
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だが、これから日本が迎えるのは、老人しか増えない社会でどのように経済を維持、もしくは軟着陸させるかという極めて困難なタスクである。超高齢化社会は、我々が選択することなく、ただそこに存在するものとして社会全体が突入する。超高齢化社会において、多数の老人が無意識的に若者から搾取を行うことになってしまうのは、多数派の意見に従うことが大前提の民主主義において正義である。正義ではあるのだが、若者は自発的にこの状態を選択したわけではなく、ただ、社会の仕組みがそうであるから搾取され、若者の未来も先細る。僕はこれは民主主義の仕様バグであると思う。この自分が選択されても、ただ社会の仕組みがそうであるから搾取されていることに対する自己防衛から、最近、ライフスタイルの多様性と日本を飛び出すこと、もしくは日本と海外に半々くらい居住することに対するあこがれが強くなっているように感じる。
この部分を考慮しない教育に対する言説を見かけたら、疑ってかかるくらいが調度良いと思います。
というわけで、今までの一般常識で考えられている「子どもへの教育投資」というのが、あと20年で意味のないものになる可能性を考える必要があります。少なくとも投資の配分を変更する必要はあるでしょう。今回の特集でもでてきた「戦後の人間の力」のような概念は、60歳を超えた人が大好きな教育的効果もあるにはあると思いますが、個人的には「成功した人があとから自分を振りかった時の成功要因」みたいなものだと考えているます。まぁ、つまり昔は良かった論です。
安藤忠雄の教育論っていうのも、基本的には戦後日本を変えた人材を作るという発想なので、どちからというとこの方向性なのですよね。で、たぶんこの方向性は失敗します。というか、20年後に意味のない概念になっている可能性が高いです。個人的には、よりリアリスティックな視点を持つなら、iTunes Uのような知の高速道路にどのように載せるかを考えるというのが王道のように思います。