たびたびブログでも取り上げつつ、きちんとした書評を掲載していなかった「リーンスタートアップ」。最近読んだ本の中ではガチでおすすめできるスゴ本だと思います。
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最近、勢いのあるFacebookやCookpadの企業内でもこのリーンスタートアップという考え方が浸透しており、パッチサイズを小さくした継続的デプロイメント、その結果をどのように取得し、どのように分析して、この本の中で「学び」と呼ばれている、自分たちがやったことがどの程度正しいことなのかを常に評価するサイクルにつなげるか、という部分に適合できるように極めて慎重に組織や会社を設計しようとしています。
個人的にはスタートアップがこのリーンスタートアップの概念を用いて起業プロセスを加速するのもおもしろいですが、大企業にどうやってこの考え方を浸透させるかを考えるのも面白いと思いました。僕の感じた大企業でこの概念を導入する重要なポイントは「強力なデプロイメントシステム」と「定量的な評価を可能にするテスト手法」にあると思います。
というのも、まず企業が大きくなると自分のミスの影響が自分の業務範囲内で収まらなくなるため、非常に行動に慎重になります。なので、自然と多めのQAサイクルを回すようになり、変更のパッチサイズも大きくなる。だけど、これって、リーンスタートアップの考え方とは真逆なんですよね。この自分のミスの影響を最小にすることは、個人が保証すべきことではなく、システムが保証すべきです。そのような考えのもとFacebookも独自の効率的なデプロイメントシステムを、Cookpadもchankoと呼ばれるまさにRails3の機能をフルに活かしたデプロイメントシステムを構築しています。
- Facebook、memcachedに300TB以上のライブデータを置く大規模運用の内側 - Publickey
- GitHub - cookpad/chanko: Rapidly and safely prototyping your rails application
一時期、TwitterやFacebookがデプロイメントシステムにやたら凝っていた時期がありましたが、これはリーンスタートアップの議論のなかできっと最善のデプロイメントシステムを構築していたのでしょうね。また、このデプロイメントシステムと切り離せない関係にあるのが、テスト手法。企業が大きくなると、組織間の調整コストがあがりますが、ある一定の定量的な指標があり、それに従って行動を評価していることがわかれば、基本的にフィーリングでものをしゃべることはできなくなるものです。この影響を限定的にするデプロイメントシステムと結果をA/Bテストやコホート分析で定量的に評価する手法などを組み合わせることで大企業内において「高度に発達したデプロイメントシステムはスタートアップと区別がつかない」という状態を作れる可能性があると感じました。
など、など、いろいろなことを考えながら読める、この「リーンスタートアップ」はスタートアップだけではなく、様々なサイズの企業で応用できそうな非常におもしろい本です。あまり業務を経験したことがない人が読んで、この考えにとらわれてしまうリスクもあると思いますが、そうでなければ、このような最新の方法論を一つの武器として持っておくのはおもしろいとおもいます。