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閉塞感と労働観のA面・B面 - 村上隆「創造力なき日本 アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」 」

最近、村上隆の以下の新書を読んで(2時間あれば読めるくらいの量)働き方の新たなスタイルの提案がそろそろきそうだな、と思った。

創造力なき日本    アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」 (角川oneテーマ21)創造力なき日本 アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」 (角川oneテーマ21)
村上 隆

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この本自体は村上隆がアートの現場で生きるには現在の「自由」をベースにした美大の教育が意味がないこと、そうではなくきちんとした師匠がいて、顧客がいて、先輩がいて、なにより厳しい評価があり、実際に金が動いている環境でちゃんとした「修行」を行うことがアートの現場で生きるための基礎体力を作る上で重要であり、その上で「覚悟」を持って「継続」すべし、という内容の本だった。
この本自体の趣旨は非常によくわかるし、内容的にも頷く点も多い。
ただ、この本を読みながら思ったのは、どちらかというと村上隆の主張の重要性ではなく、従来の徒弟制度的な職人感をベースにすることなく労働観をアップグレードすることの重要性だった。村上隆の労働観自体は食品系ブラック企業の労働観に似ている。村上隆自身、空港で見かけたラーメンチェーンで行われていた始業前の挨拶の光景をみて、自身の会社のカイカイキキで朝の挨拶を取り入れ、それによって気持ち良い挨拶ができる環境になったということを述べていた。これ自身は別に悪いエピソードではなく、一種の切り替えの方法として、朝大きな声で挨拶を行うことが効果的なのは間違いなさそうなのだが、この本で忘れては行けないのは一部の優れた師匠の下で修行をする若者にとって重要なのであって、この働き方自体が重要なわけではない。
優れた師匠の下で修行するというスタイルの問題はスケールしない、というポイントを考える必要がある。村上隆の主張はあくまでアートという市場をベースとして、「優れた師匠+修行としての労働環境」だからワークするのであって、「優れた師匠+修行としての労働環境」から優れた師匠を抜いてしまえばそこに残るのは過酷な労働観だ。この本を間違って読むとこの労働観自体も大事なように見えてくるし、実際に今後日本が厳しい状況になってくるとまた「高度経済成長期の労働観で働こう」みたいな話が手を変え品を変えて出てくる可能性も今後あると思うのだが、これは間違いだ。評価すべきは村上隆のアートに対する「歴史と文脈」から考察された「戦略」である。ここの部分が見えてこないまま、ワークスタイルを提案してもそれはただのブラックな労働観にすぎない。
ただ、残念ながらこの「戦略」に対する深い考察というのはこの本にはなかった。どちらかという前著の方が新書というスタイルではない分、そのあたりはきちんと語っていたと思うので、興味ある人はそちらを読むのも良いのではないかと思う。
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