ジョン・マエダの「リーダーシップをデザインする」を読んだ。
リーダーシップをデザインする: 未来に向けて舵をとる方法 | |
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ジョン・マエダについて今更いうこともないがグラフィックデザイナーであり、科学者であり、MITの元教授である。今はアメリカで最も歴史のある芸術系の大学であるロードアイランドデザイン学校の学長をしている。本書は大学教授から学長に転身した彼が、その生活の中でいままではグラフィックを対象に行なっていたデザインを、リーダーシップを対象に行う、その過程を描いた本。もともと彼の前著「シンプリシティの法則」が素晴らしい名著だったので、すごく楽しみにして読んだ。
シンプリシティの法則 | |
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さて、この「リーダーシップをデザインする」だが、はっきり言ってしまうとすごく評価が難しい本だと思う。これまで彼が対象にしていたグラフィックにとっていデザインという概念は極めて有効に作用していた。だが、そのような一般的なデザインの力が学長という経験の中で、どのくらい役に立ち、それと同じくらいどれくらい無力かも説明している。たとえば、彼は学長に就任したあと、現在の学校の状況を示すためのたくさんの充分にシンプルでデザインされたスライドを作成した。だが、それは実際に状況を把握するには役に立たなかったと述べている。というのも、素晴らしいスライドを使った力作のプレゼンをしたら、その一瞬は大きな成功を成し遂げたつもりになるのだが、それが延々と続く組織経営においては、その一瞬の成果ではなく、プロセスを可視化して、一緒に何かを同じ部屋で進めていくことが大事である、ということだ。
つまり、この本は一般的なリーダーシップ論の本のように「こうやれ」ということを述べているのではなく、実際にやってみたら「こうだった」というジョン・マエダの実体験をまとめた本なのだ。なので、題名も「リーダーシップをデザインする」(英名: ReDesigning Leadership)であり、彼がこれまでの経験で行ってきたデザインという行為をリーダーシップに当てはめたときにどうだったか、その過程にフォーカスしている。一般的に自己啓発本はリーダーシップを取る方法をこれだ、という結論にフォーカスしている。だが、この本がフォーカスしているのはその過程であり、読後も「さて、この本の言いたいことは何だったのだろう」ということを感じる。だが、読んでいる時に読者は自分にとってのリーダーシップというのは何なのかを否応なく考えさせられるし、ション・マエダの過程を通して、自分にとってのリーダーシップのデザインについても考えざるを得ない。
というわけで、この本は彼の前著「シンプリシティの法則」のように万人が読むべき最高の名著というわけではない。だが、リーダーシップという概念について一線級の科学者でありデザイナーがどのように考え、実践したかという過程にフォーカスしたという点において、読む人を選ぶが届く人には届くタイプの本だと思う。