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帝国との付き合い方を考え始めるための入門書;松井博「企業が「帝国化」する」書評

さらっとKindleで1時間ほどで読んだら、なかなかおもしろい本だった。

企業が「帝国化」する アップル、マクドナルド、エクソン〜新しい統治者たちの素顔 (アスキー新書)企業が「帝国化」する アップル、マクドナルド、エクソン〜新しい統治者たちの素顔 (アスキー新書)
松井 博

アスキー・メディアワークス 2013-02-28
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Appleで働いていた筆者が、Appleがヒッピーの巣窟みたいな時期から、現Appleの世界最強企業となるまでの過程をリアルに体験したなかで、企業が帝国化するとはなんなのか、それがどのように今の社会に影響を与えているか、最後にわれわれはその帝国化した企業とどのように付き合っていくかをコンパクトにまとめた本。本に掲載されている情報は、まさにクーリエ・ジャポンに掲載されているレベルの言わば情報を取得する気がある人なら、簡単に入手できる情報だが、それを企業が帝国化するというコンセプトでまとめなおすと、こういうふうに面白くできるのかという点で、高校生レベルでも理解できるし良書だと思う。もちろん、情報量自体はそれを専門とする人がまとめた類の本と比較すると浅いが、少なくとも企業が帝国する中で、そのような社会とどのように付き合っていくかを考える切っ掛けとしては優秀だと思う。
論考の浅さが気になった点としては、例えば帝国化した企業の手法の一つとして、匿名化された情報を利用した広告の手法がGoogle・Facebook関連の中で述べられている。フィルターバブルの本でも取り上げたが、この問題は結構根が深い。
閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
イーライ・パリサー Eli Pariser

早川書房 2012-02-23
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Googleは財務的には広告企業なので、検索などで高い収益率を維持するにはこの中で述べられている匿名化した情報を扱って少しでも広告のヒット率を上げる必要がある。この方法論を絶対悪とみなすべきかというと、それは違っていて匿名化された情報を利用して広告のヒット率をあげないとWebに流れるお金自体が減少していき、最終的にはWebの経済圏自体が縮小してしまう。なので大事なのは、どこまでが利用されていい情報でどこからが利用してはいけない情報なのかの折り合いを企業とユーザーの中で見つけていき、政府もそこに適切な制限をかけることなのだが、このトピックが言及される多くのケースでは、このようなリアルタイムビッティングに代表される匿名化された情報を利用した高度な広告システムは「帝国」的なものと捉えられてしまう。でも、僕らはGoogleの恩恵をおもいっきり受けているし、少なくともGoogleに搾取されているかといわれると、そこまで単純ではない。このあたりの機微がきちんと書き分けられているかといわれると踏み込みが浅い箇所が多いが、全体的にはフォックスコンの労働条件の問題などきれいにまとめているように感じた。
あと、この本では、企業が帝国化するのを悪とみなすのではなくそれに対して個人がどのように接していくかにも多くのページが割かれており、「専門性」や「創造性」、「言語」などが、それぞれ今後どのように価値をシフトしていくかを考える切っ掛けとなりそう。ワーク・シフトとか読むよりも直近のネタとしては手頃かも。全体的に、なかなかうまくまとめているなー、と感じた良書でした。