Appleが今期の新作iPhone 5S/iPhone 5Cを発表した。iPhone 5Sが64bit CPUを搭載したハイスペックスマートフォン、iPhone 5CがiPhone 5をベースにカラバリ展開を行ったモデル。
ただ、特に日本ではiPhone 5Sが二年契約を前提にすれば実質0円で買えるのに、わざわざ性能の低いiPhone 5Cを買う経済的な合理性が低いのではないかと思っていたが、案の定5C側の予約は苦戦しているようだ。docomoなどはiPhone 5C 16GBモデルでは通信料からさらに525円値引きするキャンペーンを行っている。
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現状、日本のスマートフォンの販売形態は実質0円戦略が事実上の標準になっているのは、逆にこれ以外の販売方法というのがほとんど売れないからだ。以前、以下のエントリーでも書いたが、通信費などに端末代金を転嫁させ、スキーム的に初期投資をゼロ円にするというのは、強力な戦略だ。
もう一つは、スキームとしてのフリー。例えば、2年契約+高額オプションの契約で携帯電話の本体をフリーで配る戦略。現状、圧倒的な普及を実現するためにはこのスキームとしてのフリー戦略が大変重要で、ドコモの2トップ戦略も、要は端末をフリーにできる仕入れ値を実現するためには絞った機種に生産を集中させ、スケールメリットを使う必要があり、あえて2種類に受注を絞るためにあの戦略を採用したと考えるのが重要だ。iPhoneのスケールメリットは半端じゃないので。実際、フリーじゃないと端末なんて殆ど売れないと考えたほうが良い。
まぁ、そんなわけで特に日本ではiPhone 5Cを買う経済的な合理性がほとんどないので、売上はiPhone 5Sに集中すると思う。ただ、その肝心のiPhone 5Sはかなりの品薄のようで、どこのキャリアも予約を開始していないようなので、もしiPhone 5Cの発売の目的がiPhone 5で行ったA6プロセッサ向け設備投資などをもうちょっと長めに使いたいということが含まれているなら、もっとガツンで値段を下げる必要がある。ただし、0円戦略を採用している日本では下げる値段が存在していない。あれ、この構図どこかで見たことあるなと思ったら日銀の0金利戦略と似てますね。
こんな前置きはどうでもよいのですが、iPhone 5S/5Cの雑感をまとめておきます。
iPhone 5SのコプロセッサM7
まず、ざっとiPhone 5Sのスペックを眺めていて気になったのがコプロセッサのM7。
さらに、コプロセッサ「M7」も搭載。加速度センサー、ジャイロスコープ、電子コンパスからのモーションデータ処理を担当しており、例えばフィットネス系アプリを使用している場合でも、A7チップに連続した負荷をかけず、M7コプロセッサからデータにアクセスでき、バッテリ消費を抑えられるという。ユーザーが歩いているか、走っているか、車に乗っているかも判断し、ルート案内機能を自動で切り替えたり、ユーザーが寝ている間はネットワークへの接続をチェックする頻度を自動で減らすという。
コプロセッサとは簡単に言うと、汎用的に利用可能で強力なCPUと異なり、ある目的に特化した処理を行わせるプロセッサ。この目的の中には省電力が含まれていることが多く、M7の目的も大量のデータを勝手に収集するセンサー郡のデータから特定の意味のあるデータを取り出す作業を省電力で行うことが目的と思われる。
M7が搭載されたことで、Appleが目指している方向性も大雑把に推測できる。それは、いよいよAppleがユーザーの行動データの活用体制に入り始めたということ。これまでAppleのユーザー情報吸い上げ体制は特に欧州の激しいチェックがあり限定的だったが、例えばNike Fuelbandのようなユーザーにとってもメリットのあるアプリをセットで提供すれば、そのサービスを利用するユーザーのデータを取得するという理由が生まれデータ取得の合理性がある。実際に以下のようなNike Fuelbandの開発者がAppleにJoinする動きもあり、Googleと繰り広げている行動データの取得合戦がいよいよ次のステージに入ったと考える事もできる。
早々にB7専用アプリがAppleから出るのではないかと思うが、5C側には搭載されていないのが悩ましい。
CPUの64bit化
次にA7で行われたCPUの64bit化話。以下のようにゲームコンソールを見据えて64bit化を行ったという意見もあるが、どちらかというと、リリースしたらすぐに対応端末が年に何度もリリースされるAndroid陣営と違って、年の後半に一度しか製品発表のないiPhoneだとこのタイミングで行うのがロードマップ上、必要だったという方が単純に考えて正しそうだ。
なお、アプリケーションが64bit化すると一般的に言って利用できるメモリの最大サイズは上昇(4GB以上になる)するが、メモリの利用効率が下がることで実行速度的には少々下がることが多い。なので、全メモリを扱う必要があるOS側は早めに64bit化しておくのに越したことがないが、アプリケーションはゆっくり64bit化すれば良い。ただ、64bitの実行確認環境自体は早めに提供しておくにこしたことはない。そんなわけで、CPUが固定化できないため64bitへの移行に時間がかかると考えられるAndorid陣営とは異なり、実行環境が固定化できるAppleだからこそ今回の変更を早めに行ったと考えた方が良いかも。ARM 64bit向けコンパイラの成熟を考えても早めにノウハウを貯める方が先決と考えたのかもしれない。
Touch ID
最後にTouch ID。これは法人利用のセキュリティ強化の他に、いわゆる「ワンアクションをゼロアクションにする」タイプの技術でもある。4桁のパスコードを入力する代わりに握る動作と同時に指を動かせばゼロアクションでiPhoneを起動できる。さらに、指を5つまで登録可能ということで、将来的には中指で普通に起動、人差し指でカメラ起動などいろいろなバリエーションでゼロアクション技術が達成される可能性もある。更にiOSの様々な操作で要求されるパスワード入力が全て指紋センサーで代替できるとしたら、UXとしてはかなりの向上なのではないかと思う。