先日のWhatAppの記事でも書きましたが、IT業界の巨人達の動きを理解する上で、このルールメーカーとルールチェンジャーという概念は非常に重要です。
この概念を理解する上で、すごく僕が好きなのが「In The Plex」(Googleのドキュメンタリーの中ではNo.1の本)のエピソードで描かれたFacebookが現れた時のGoogle内の反応の一節です。少し長いですが、引用してみましょう。
2007年6月8日、ジャスティン・ローゼンスタイルはグーグルの元同僚だちに一本のメールを送った。「みんなにグッドニュースを伝えたい」と彼は書いた。 「フェイスブックは本当に『あの会社』だった」
どの会社かって?あの会社だよ。何十年かに一度出るか出ないかというあの会社。昨日のグーグル、はるか昔のマイクロソフトがそうだった。・・・やがて世界がかわるきっかけをもたらす最先端企業で、どの社員も組織に大きなインパクトを与えられるほど小規模で・・・その会社が約束の地に向かって突き進んでいることを誰かに教えてもらったにもかかわらず時流に乗り遅れれば、3年後に必ず公開する、そんな会社だ。
この記述を見ていただければ、「あの会社」というものが登場したときの他のIT企業の反応を理解してもらえると思います。これが「ルールチェンジャー」が登場する瞬間であり、その後、ルールチェンジャーは圧倒的なプラットフォームを構築し「ルールメイカー」となります。
現状、SNS分野ではFacebookが未だにルールメイカーだし、検索はGoogle、スマートフォンはAppleとGoogleのルールメイカーであることは明白です。おもしろいのは、ルールチェンジャーが現れた時の反応で、特にFacebookに関しては、ルールチェンジャーには一貫して「買収」で対応しています。インスタグラムやWhatAppの買収はこのルールチェンジャーがルールメイカーになる前に先手を打って買収しており、これはSNSという年代的なユーザー層の交代で一気にユーザー層が入れ替わる分野でFacebookが戦っていることと関連していると思います。SNSという分野はどうしてもその年代の感性に依存する部分が多いので、例えば米国で流行っているメッセージや写真が閲覧後に消えるSnapchatなどは、まさにFacebookのアンチテーゼとして存在しているといっても過言ではありません。そのようなSNS分野の新しい勢力を積極的に買収することで、SNS分野における地位をキープするというのがFacebookの基本戦略のように見えます。
一方、GoogleもGoogleベンチャーズという世界最大規模のVCを擁し、買収という対策を行うこともありますが、基本的にはルールチェンジャーが現れた場合、自前で対応しようとする傾向にあります。もしくは、かなり長期的な投資でルールメイカーの地位を全く異なる分野で築こうとします。その最も良い例がAndroidで、また、現在のロボットに対する投資です。面白いのが、この分野の立ち上げ時の責任者は両方ともアンディ・ルービンであり、彼はGoogleが常に長期的なルールチェンジャーとして存在することを担当していると言っても過言ではないおもしろい存在です。
スマートフォンがWebの次のプラットフォームになることは明白だったのですが、そのOSをきっちり抑えたGoogleとAppleが長期間ルールメイカーと君臨するだろうと考えていたところに、OSやスマートフォンを土管化するWhatsAppをFacebookが買収したことで、一気に状況がわからなくなってきたというのが現状です。注目すべきは、このIT業界の戦いを行っているのが全て米国企業であり、言わばどのような勝負になっても結局米国企業が勝利する構造になっていることでしょう。高城剛はこのIT業界を全て米国企業が抑えるのを米国の次世代の国策であり、地理的な覇権から、電子的な覇権に戦場がシフトしていると述べました。
この部分に関しては、シリコンバレーというシステムが大きく関与しています。以下の記事がわかりやすいですが、今回のFacebookにとるWhatAppの買収でVCの持ち分の価値は30億ドルです。
WhatsAppが公表している資金調達は、Sequoiaがリードした800万ドルのシリーズAのみだが、同社はその後2度の調達を行っており、未報告の5000万ドルシリーズCラウンドもその一つだ。Sequoiaは両方の追加調達をリードし、数年に渡ってWhatsAppに計約6000万ドルを投資した。その結果総持株は10%台後半まで積み上がったと私は聞いている。
この30億ドルがまたシリコンバレーにおけるIT業界の拡大再生産に回るわけですから、もうこれは次のルールチェンジャーがシリコンバレーから現れる可能性も非常に高いでしょう。こうやって、さまざまなお金が積み上がって、また回っていくシステムが結果的にIT業界のルールを作っていくと考えるとシリコンバレーというシステム自体が「ルールチェンジャーメイカー」だと考えることができそうです。
上の一節は以下の本から拝借しています。まだ読んでない人はKindle版もあるので、ぜひご一読を。読む価値あります。