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37signals流の考え方を楽しもう「強いチームはオフィスを捨てる」書評

Ruby on Railsの開発などでもお馴染みのスーパーテクノロジー企業37signalsが、リモートワークを取り入れた話をベースにリモートワークのススメをまとめた本「強いチームはオフィスを捨てる」。原題のREMOTEと比べるとちょっとださい邦題だなーとおもいつつ、このくらいの方がわかりやすいのかもしれません。

どこにいても世界中の人と簡単にコミュニケーションできるのに、なぜオフィスが必要?
人生の大切な時間を通勤に費やすのはナンセンス!
優秀な人材と一緒に働きたければ、物理的距離なんて関係ない!
前作『小さなチーム、大きな仕事』で圧倒的な支持を集めたカリスマ経営者たちが、今回取り上げたのは「リモートワーク」。
世界に散らばる36人の社員を率いて、数百万人ものユーザーにサービスを届けている彼らが、新しい時代にふさわしい働き方を伝授する。
会社や組織にまつわる固定観念が、徹底的にくつがえる!

さて、その中身はどうだったかというと、リモートワークの可能性は感じたし、方向性もおもしろいと思うのですが、これはかなり企業にとっては活用が難しいな、と思いました。というのも、総論としてリモートワークがすごく面白い選択肢であることは同意できます。特に通勤のコストが不要でより自分の生活に時間を割くことができるようになるという選択肢は多くの人にとって魅力的でしょう。ただ、実際、リモートワークを取り入れるべき企業って難しいと思うんです。
まず、企業にとってリモートワークを取り入れる理由はなんでしょうか?本の中では、引っ越しや家庭の事情で企業を離れてしまう優秀なメンバーをそのまま雇いつづけることができること、そして、世界中の優秀な人材を場所に依存せず雇うことができることが有力な理由として挙げられています。例えば、37signalsは世界中を移り住んでいるRuby on RailsのメインプログラマであるDavid Heinemeier Hanssonと一緒に仕事を続けることが出来てますし、他にも強力なメンバーを揃えることができています。素晴らしい才能を集めて、利益率の高いスモールビジネスを維持する。儲けもたくさん社員に配分して、満足度を高める。天気がいいシーズンは週休3日。もし、実現出来たらこれは本当に素晴らしいことです。ただ、その難易度がリモートワークを取り入れたかどうかでは、あまり変わらないはずで、難しいものは難しいです。
リモートワークは何かビジネスを成功に導く万能薬でもなければ、リモートワークができるからといって個人の能力をエンハンスできるわけではありません。むしろ、リモートワーク特有の罠が数多くあり、それに対する対策が必要だと述べています。たぶん、いまオフィスで集まっているチームをリモートワークでも機能するようにするのは、とても大変な作業が待っていると思います。そして、リモートワークを取り入れてもそれが成功に優位に効いてくるわけでもない。37signalsが成功しているのは、Jason Friedや社員の力であってもリモートワークは本質ではないように感じました。
でも、ですね。それでも、リモートワークというか、その方法論はすごい可能性を秘めていることも読み取れました。というのも、これは最近のエンジニアリングの方向性と非常に相性が良いです。以下のエントリーでも大きく話題になりましたが、現状のウェブ系スタートアップのエンジニアリングは、大きく変わってきています。

たとえば、これまで属人性の塊と言われてきたサーバの設定やチューニング。これも最近はChefなどのプロビジョニングツールによって、個人が抱えている秘伝を排除し、ひとつの明文化された設定として管理されるようになってきています。また、ユニットテストを書いてJenkinsでCIし、Githubでコードレビューを行ってデプロイ。現在、特にテック系のスタートアップで主流となっている開発のワークフローは、全て言い換えれば、このワークフローに従えばわずか数日で、新しい人が開発に参加できるようになっています。この流れというのは、リモートワークと非常に相性が良い。つまり、全ての作業から属人性が失われることで、逆にリモートであっても何でも良いから、腕の立つ人が必要という流れが生まれてきているということです。もちろん、仕様を一気に詰めたい時とか、最後の調整をみんなで行いたいときに一つの場所に集まって作業を行う有用性は何一つ変わっていません。その手法はその手法で今も非常に有効です。ただし、リモートワークでできることの幅が従来よりもずっとずっと大きくなっている、というのも間違いない事実であり、それは特にテック系スタートアップでは顕著だと思います。
そして、この本にかかれていることは、そんなテック系とは関係ない言わば会社を全てリモートで回すための方法論です。つまり、この本はリモートワークを企業に導入しようという本ではなく、新しい働き方を模索する上で、遭遇するだろう問題とその対策と考えることができると思います。また、エンジニアと一緒に異なる分野の人が集まって、何かプロジェクトを成し遂げようとするときのテクニック集と考えることも出来そうです。そういう観点で見るといろんなエッセンスが満載ですから。
そんなわけで、この本はリモートワークという観点ではなく、37signals流の働き方から分かった様々な働き方に関するテクニック集とかんがえると面白いように思います。そういえば、一つ前の「小さなチーム、大きな仕事」もそんな感じの本だったので、好き好きはあるけど、働き方の新しい方法を模索している人やスタートアップの人々には特に価値があるように感じました。