FutureInsight.info

AI、ビッグデータ、ライフサイエンス、テクノロジービッグプレイヤーの動向、これからの働き方などの「未来」に注目して考察するブログです。

NHK「ネクストワールド 第一回 未来はどこまで予測できるのか」の技術的補足

昨日、多くのTECH系Twitterユーザも見ていたNHKの「ネクストワールド 第一回 未来はどこまで予測できるのか」。いくつか気になった点があったので、技術的に気になった部分を補足したり、雑感をまとめておきたいと思います。

http://www.nhk.or.jp/nextworld/

まず、昨日リアルタイムで見たいた感想はこちら。

では、気になった部分をまとめていきましょう。

Google D-wave

上のTwitterでも書いてますが、D-Waveが今まで解けない問題を解ける夢の新型コンピュータみたいな扱いにされてましたが、このあたりの詳細がかなり省かれていました。D-Waveは過去に僕も気になって調べたことがあり、以下のエントリーでもまとめているので読んでいただきたいのですが、簡単に言うと擬似焼きなまし法(シミュレーテッドアニーリング)を量子ビットを用いて実験する装置と考えてもらえればよいです。

つまり、計算量が爆発して到底現実的な計算時間で解けないと思われている一部の「組合せ最適化問題」を解くことができます。量子コンピュータというと、チューリングマシンをイメージする人も多いかと思いますが、それとは全く別物ではあるものの、非常に興味深い装置であることは間違いなく、また一部のAI系の課題は組合せ最適化問題に帰結できることもわかっていますので、そのためのGoogleの先行投資とかんがえるのがD-Waveに関しては妥当であるというのが今の僕の考察です。

ワトソンによる人工知能

IBMが提供するワトソンによる人工知能サービスは大々的にIBMが発表したものの、その活用は結構難しいと聞いています。現状では、ワトソンがお客様サービスをPCチャットなどでまず対応するというような現状のサービスセンターを代替するサービス、医学の画像診断への活用やフィナンシャル・プランナーとしての利用、レシピの開発などが活用事例としては有名ですね。

こうやって眺めてみると、ワトソンという汎用AIがあるというより、構造化データと非構造化データのどちらにも対応した自然言語処理と機械学習を利用して膨大なデータを分析可能な技術を、IBMが「ワトソン」というわかりやすいブランドで売り込みを図っていると考えたほうが筋が良さそうです。

Musicxrayによるヒット曲予測

これは結構最近友達とも話すホットトピックなのですが、AIを活用して音楽やゲーム、映画などを作成するというトレンドは結構大きくなっており、方向性としては以下の2つがあると思っています。

  • 小さいヒットを狙うときにそのスクリーニングには人件費をかけることが出来ないので、コスト削減としてAIがヒット予測する
  • 巨大コンテンツを作成するときに、万が一にも失敗が許されないので、AIで分析したヒット法則を則してコンテンツを作成する

上は、ネクストワールドで紹介されていたMusicxrayの事例ですね。下のほうは、そもそもヒットするべき物語の法則性というのは、映画では昔からかなり研究されており、それを非常にうまくクリエイティブと結びつけたのがピクサーだとよく言われています。このトレンドはコンテンツの均質化を招くとよく言われていますが、AIを活用した時にその多様性をどのように維持するか、もしくはロングテールをどのように活用するか、というのは当然意識されており、今後のコンテンツ作成のトピックの一つとなってきそうです。

プライバシー問題やよく喋るエージェント型AIについて

「2045年にはセンサーが普及することでプライバシーという概念がなくなり、効率化された社会が到達した」というナレーションがありましたが、2045年というスパンで考えたら、まぁ、何が発生するかを予測するのは非常に困難なのですが、IoTでプライバシーがなくなるというのはちょっと想定するのが難しい未来だと考えています。

というのも、あのドラマのように家庭内の会話まで分析される未来というのはだれも望んでおらず、また、現状の政府の役割を考えるとこのようなプライバシーに関わる分野に政府が介入してくるというのは、そのコストを考えるとかなりありえない未来だと感じました。

最近話題のピケティの著書『21世紀の資本論』のメイントピックでもありますが、政府の役割は明確に「不平等への是正」にシフトし、他の役割、特に警察やプライバシーに関するところに関しては、その部分に政府が今後介入するのは、メリットよりもデメリットの方が現時点では明らかに大きいと思います。

そんなわけで、どちらかというよく喋るAIというのは、専門性が高いものはワトソンが現在提供しているようにいろいろなサービスを提供する形でメッセンジャーアプリの一部に溶けこむような形で提供され、プライバシーの懸念が高いものはその参入障壁の高さからあまり発展しないのではないかと考えています。

まとめ

さて、いろいろ突っ込みどころも多かったネクストワールドですが、番組としてはその突っ込みどころの量も含めて結構楽しめたので、今日の夜の放送もチェックしたいと思います。